■コミックバンド「YAMABAN」が活動の原点
―コミュニティ活動はいつから始められましたか
横井:2000年頃に宮前区にいたときに、まだ子供が小さくて、子育ての自主サークルがあったんです。そのサークルに入ることで、ママ友ができました。その中に音楽をちゃんと学んできた人たちがいたので、コミックバンドを作りました。それが現在の「地域活動応援隊YAMABAN」というバンドにつながるコミュニティ活動の始まりです。
オーディエンスを楽しませる来場者参加型のパフォーマンスを、当初、こども文化センターの集会場のような小規模のところでやっていましたが、口コミで「変なことをやっている人たちがいる」という口コミが広がって、あちこちに呼ばれるようになりました。
そのうち行政の人の耳にも入り、行政主体のイベントにも呼ばれるようになりました。頼まれない限り自分たちで自主運営はしませんが、中原区に移住してきてからも、あちこちで出演依頼があるので、未だに続けています。本名で活動するのも変かなと思い、「きゃさりん」という芸名をつけました。
やっているうちに気が付いたのは、どこもかしこも団体として自分たちのサークル活動を継続していくことに汲々としていて、役員を交代してやっていくのも大変だし、イベントを開催するのも、役員になったばかりの人などは慣れないから、すごい負担感があるということです。
一方、私たちがやってきたことは、季節ごとにネタが積まれていきます。4月は新入生歓迎会、8月ならば夏祭り、10月にはハロウィン、12月はクリスマスなど、だいたいイベントがパッケージ化されてきます。そうすると運営はそれほど苦ではなく、イベントのサービスを提供できるようになっていました。
こういったパッケージ化されてやり慣れた人たちがサービスを提供することで、子供会活動がちょっとでも負担軽減になったりするのであれば、この活動の基本であるボランティアを続ける意義があります。また、地域活動のやりやすさ、つながりやすさにもつながるのであれば、こういう活動も役に立つんだということに気づきました。
地域活動応援隊「YAMABAN」(左から3人目がきゃさりん横井さん)
■今は大きなイベントの運営がメインに
とはいえ、今のメイン活動は参加型アートフェスティバルで屋内イベントの「コスギアート ラ・ファブリカ」と屋外イベントの「街ナカアート」の運営ですね。「コスギアート ラ・ファブリカ」は中原市民館で2日間を使って、ホールでの音楽・ダンス・演劇・美術など多彩なパフォーマンス、ギャラリーでの体験型ワークショップを展開しています。
「街ナカアート」では、中原平和公園の野外音楽堂での和太鼓演奏や、ダンス、一輪車演技などを楽しんでいただくとともに、体験型ワープショップも開きます。
―相談事も多いとか
横井:かれこれ創ってきたコミュニティが少なくとも10団体ほどもあるので、相談事も多いですね。イベントをやりたいけれど、出演してくれる人を紹介してほしいとか、手伝ってくれるボランティアを紹介してほしいなど、人を紹介してほしいという相談事が一番多いですね。
■「哲学カフェ」は個人的興味から始まった
―なかでも哲学カフェはどのように始まったのでしょうか
横井:はじめは、私の個人的なハンナ・アーレントに対する単なる興味から始まっています。アーレントの伝記映画を観て、「すごい、この人!」と思い、「悪は凡庸である」と喝破した言葉が胸に刺さりました。そこで、2020年4月に、哲学カフェという名称で、埼玉県和光市の「アルコイリス」というコミュニティカフェが開催していたハンナ・アーレントの読書会に参加したのです。
その後も2、3回参加して、そこで講義をされていた千葉大学名誉教授の佐藤和夫先生と知り合うことができ、2020年9月のイベント「コスギアート
ラ・ファブリカ」の中で、「アーレント『人間の条件』入門編‼」として開いたのが初回です。
―横井さんが始めた哲学カフェは、ぱっと広がりましたね
横井:最初に哲学カフェとして立ち上げたのがアーレントの読書会ですが、次に立ち上がったのが、2021年2月に武蔵新城のメサ・グランデ、同年5月に井田杉山町の大きな木、その後、平間や高津区でも立ち上がりました。どれも立ち上げの初期の段階では、何回か伴走しますが、軌道に乗ったところで、手を放させてもらっています。
私があまり関与していない哲学カフェを含めれば、幸区や宮前区などに広がり、今では10団体ほどに増えています。そこで、去年は川崎市平和館を借りて、「カワテツ大集合」と銘打って、川崎市内の哲学カフェが集まりました。今年は10月9日に川崎市総合自治会館で第2回を開催します。
―なぜ今、哲学に興味を持つ人が増えたのでしょうか
横井:哲学カフェがどの人にも求められているとは思っていません。ある一定の知識レベルの人たちだと思います。その層の人たちに響くコンテンツなんだろうなと思います。全然、興味のない人もいるでしょうし。都会なので、アーレントのような難解な哲学に興味を寄せる人たちもいるのでしょう。
和やかな雰囲気の哲学カフェ(左から2番目が佐藤和夫・千葉大学名誉教授)
■中原区のコミュニティは400以上ある
―中原区民交流センター「なかはらっぱ」に登録されているコミュニティは200近くあります。中原区はとてもコミュニティ活動が盛んですね
横井:登録されていないコミュニティを考えれば、その倍以上の団体があると思います。ですから、盛んに活動している人たちとつながり始めると、無数につながっていきます。哲学カフェひとつとっても毎週、どこかでやっています。
やはり、中原区民が約26万人もいると、人の数だけコミュニティって必要なんだと思います。5人でやっているバンドだって、コミュニティです。70歳代、80歳代でも文化的活動をしている人たちはかなりいます。歳をとると、歴史的なことに関心があって歴史の会などで活動されていたりします。
■深く考えずピンときたら参加する
―ただ社会が2極化していて孤立している人々も急増しています
横井:好んでの孤独はいいけれど、望まない孤立に関しては、そういう方をどうにかコミュニティにつなげれば、解消する問題でしょう。健康寿命を延ばすためにも、友達がいるという状況をつくることは有効だというデータがあります。心身の健康にコミュニティ活動が果たす役割は何かしらあると思います。
40歳代に入ると仕事の責任も増えて、なかなか趣味の活動ができなくなります。ご家族のいらっしゃる方であれば、子供を通じて地域とつながることは難しくありません。しかし、お子さんがいないマンション住まいの単身者だと、なかなか地縁組織にはつながりにくい。
そういった人たちが自宅は寝に帰ってくるだけというパターンでは、退職が目前となった年頃で、まるで一人という状況に陥るのは、本人たちも不安に思っているのでは。ですから、40歳代の段階で、地域のコミュニティとつながる単身者の方が増えていますね。
―都市部のコミュニティで大事なことはありますか
横井:フラットな人間関係が大事です。会社ではないので、上下関係はいりません。ただ、合意形成をあまり重視してしまうと、一歩も進めなくなる時があるので、許される範囲で独断専行でやることも必要です。でないと調整で疲れ切ってしまいます。自分が疲れない程度に独断専行しつつもフラットにやっていくのがいいのかなと思います。
―コミュニティを探している読者にメッセージを
横井:休日も気軽に誘える友達がいた方が楽しくはありませんか。ふらっと行けるようなコミュニティをSNSなどで見つけたら、深く考えずに「案ずるより行くがやすし」です。行ったからといってそこに義務が発生するわけでもないので、ピンときたら行ってみましょう。
カワテツ=川崎市の哲学カフェ(Facebook)
https://www.facebook.com/groups/1036995560133504
現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。