日本文化の継承と環境問題に取り組む「あそびのわとわ」

日本文化の継承と環境問題に取り組む「あそびのわとわ」

シンプルな形で様々な色合いを紡ぎだせる日本の伝統文化・水引に惹かれた坂井美穂さんと関川房代さん。この伝統文化を継承したいと「あそびのわとわ」というユニットを二人で結成して、ワークショップを定期的に開催。一方、このユニットで環境問題にも取り組んでいるそうです。「深刻にならずに楽しむことが大事」とか。お二人にそんな活動についてお話を伺いました。(プロフィール写真の撮影:D STUDIO、右:坂井美穂さん、左:関川房代さん)


「水引」に惹かれて日本文化の継承を志す

―お二人はどのように出会われたのですか

坂井:実は、同じ町内に住んでいて、町内会の小さい子どもの部会の役員として知り合いました。役員としては同期だったのです。そもそもご近所でもありました。

―お二人でユニットを組もうということになった経緯は

関川:役員の任期が終わるような頃になって、なにかしら自宅の近くでできるような仕事と趣味のあいのこのようなことができたらいいなと思っていました。その時に、日本文化を子どもに教えるという講座があったのです。そこで、坂井さんに「一緒に講座を受けてみない?」と声をかけたのです。

―それではユニット・コンセプトは関川さんが提案したのですか

関川:講座を一緒に受けてみないかとは言いましたが、最終的にピンポイントで絞り込んだのは、講座を受け終わって二人ともが興味のあるものを見つけてからですね。それが、水引です。その講座の中には色々なコンテンツがあったのですが、その中で、二人とも水引にすごい魅力を感じたのです。

―どういう魅力でしょうか

関川:私はもともと和のものが好きで、小さい時から日本舞踊を習っていたりしたという前提があります。水引はご祝儀袋などの帯として使われるものですが、一本の紐から色々なものができて、それが素晴らしい。また、調べてみたら、水引には本当に様々な色のものがありました。それを見て、アクセサリーにしたら楽しめると思ったのです。

 

坂井:関川が言うように水引には様々な色があるので、同じ形でも色を選ぶ時点でとても個性が出ます。ですから、様々な人の色の組み合わせを見たいなと思いました。今も月に2回は必ず水引のワークショップをするのですが、生徒さんがどんな色を選ぶか、毎回、楽しみです。自分が考えつかないものを知ることができる貴重な時間です。

―お二人でどういう役割分担をしていますか

坂井:対外的な交渉は関川にまかせっきりです。私はコンテンツの中身やデザイン的な色の配色、絵柄を考えたりロゴを作ったりしています。ですから、二人が組み合わさると色々な仕事ができます。そこで、「あそびのわとわ」という日本の和と人が集まる輪という意味のユニット名もつけました。

水引は様々な色の組み合わせが楽しい

環境問題を啓発する「空とぶサカナ」プロジェクト

―一方で「空とぶサカナ」プロジェクトをやられていますが、どういう経緯ですか

坂井:もともと私たちは色々なイベントに出ていて、あるイベントでたまたま水辺の環境保全をしている寺田浩之さんに出会ったのです。彼からアートを取り入れた環境問題を啓発するような作品を一緒に作れるのではないかと声をかけていただきました。

―お二人とも以前から環境問題に興味があったのですか

坂井:興味はありましたが、実際に水の中に潜って環境を見ている人とは危機感の差は大きかったので、よけいに自分たちでできることをやらなければと思ったのです。

寺田浩之さん(右)と環境問題に取り組む

―このプロジェクトでは海の問題を取り上げていますね

関川:そうですね。ただ、問題を解決するのではなくて、できることを考えようという啓発に近いものです。例えば、貝の外来種について取り上げるなど、身の回りで環境について起こっていることを知ることに焦点を合わせています。そういったことをアートやワークショップを通じて身近に感じてもらうことが大きなテーマです。

 

その中で、プラスチックなど減らせていけるものがあればいい。気づいてもらうことで、すごく深刻な解決できない悩みとしてではなくて、自分たちでできることを探してもらいたいと思っています。

宝さがし感覚でプラスチックのゴミをアートの素材にする

坂井:だから、宝さがし感覚というか、海辺に落ちているプラスチックをゴミとして見るのではなくて、アートの素敵な素材があるじゃないかという感覚で見ています。ゴミを減らそうではなくて、宝物が落ちているから、取りに行ってそれでアート制作をしようという感覚ですね。

―実際に海辺でプラスチックや貝を探されていますね

関川:寺田さんは水辺のプロなので、何月何日の何時にこの海辺に行くとプラスチックがいっぱい落ちているとか、台風が来たからここにゴミが集まってきているはずだとか教えてくれて、一緒に海辺に行ったりしています。

海辺でプラスチックの「宝物」を探す

―「サカナの涙」というアート作品を作られていますね

坂井:ある外来種の貝が東京湾内で激増しているのですが、寺田さんがとても懸念していて、その問題を取り上げたいと提案してくれたのです。一方で、私たちは海辺のプラスチックを見て、色とりどりでなんて素敵なんだろう思い、貝と海辺のプラスチックを掛け合わせて作ったのが「サカナの涙」です。

 

貝とプラスチックを合わせた1個が1センチほどの小さなものですが、半年近くかけて、それを何千個も作り、プラスチックは赤青緑など系統ごとに色分けもしました。貝はなま物なので、素材にするために茹でて身をとって、洗浄するという手間をかけています。その貝にプラスチックをはめ込んで、メインの作品としては垂らした釣り糸にその貝を繋げて並べた作品にし、個別にはアクセサリーにもしました。

 

ワークショップも開き、2個作ってもらい、一つはアクセサリーにして、もう一つはアート作品に使いました。そうするとワープショップに参加された市民の方がアート作品を見に来てくださり、ご自分が関わった作品を見て喜んでいただいたりしています。

小さな貝と色とりどりのプラスチックをあわせて作った「サカナの涙」

無力さではなくできることを探すことが大事

―その次はどういう作品を作りましたか

坂井:クラゲをモチーフにした作品です。破れて使えなくなった投網や廃棄されたビニール傘を使って作りました。作品名は「偽りの浮遊」といって、ウミガメがクラゲと間違ってビニール袋を食べて死んでしまう問題を取り上げたのです。

 

その作品の制作に際しても、市民の方々に参加していただき、ウミガメを作ってもらいました。プラスチックのペットボトルを使って甲羅の形にしました。

ウミガメのプラスチック被害を取り上げた「偽りの浮遊」

―ということは、現在は次回作のアイディアを練っているのですか

関川:「空とぶサカナ」プロジェクトの作品は、最終的には環境啓発の絵本にしたいのです。そのために章立てをしています。第1章は、「サカナの涙」でスタートして、第2章は「偽りの浮遊」、第3章は…という構成です。アート展示を絵本仕様にするためにプロジェクトを動かしています。ですから、次回作もストーリー性を持たせるものを考えています。

―環境問題も楽しむことが大事だとか

関川:暗い気持ちで無力さを感じるよりは、楽しみつつできることを探してもらい、それを多くの人に増やしていけば、大きな力になると考えています。

―今後の抱負を教えてください

関川:コロナ禍で出来なかったことがあって、水引などの日本文化を来日する海外の人向けに広めたいと思っていて、そろそろ、それを実現させたいと話し合っています。

―読者へのメッセージをお願いします

坂井:アートって、遠いものだと思っている人も多いと思いますが、どんな人でもアートを通じて豊かな気持ちになることができると思っています。だから、気軽な形で身近にあるものでいいので、普通にアートが生活の一部のようになるといいなと思って活動しています。

 

関川:やってみたいことを臆せず体験できることが近くにあることがいいと思っています。失敗も経験のうちだと思って、ワークショップなどを通じて、短時間だけれど、やってみたいことの体験を積み重ねてもらえればいいなと思っています。

「あそびのわとわ」ホームページ

https://www.facebook.com/asobinowatowa/?locale=ja_JP

 坂井美穂さんとの出会いの場:中原区100人カイギ

この記事のライター

現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。

関連する投稿


大人は口出し禁止「こどものまちミニカワサキ」の大城英理子さん

大人は口出し禁止「こどものまちミニカワサキ」の大城英理子さん

大城英理子さんは、もともと大手設計事務所で都市開発の仕事に従事していたそうです。しかし、子育てとの両立に悩んで会社を辞めてから、子どもの成長環境に取り組むようになって出会ったのが「こどものまち」。子どもたちだけでまちづくりをする仕組みに魅了されたそうです。「こどものまちミニカワサキ」にたどり着く道のりと、「こどものまち」がどんなものなのか、お話を伺いました。


住み開きシェアハウス「TACOHAUS」でまちのハブを目指す大塚誠也さん

住み開きシェアハウス「TACOHAUS」でまちのハブを目指す大塚誠也さん

学生時代に「生きる意味」を探しにアフリカまで人類の起源をたどる旅に出た大塚誠也さん。帰国後の就職活動は、旅での体験とのあまりのギャップに違和感を感じてやめて、新卒のフリーランスとして、場づくりの活動に着手。現在はデザイナーをしつつ、武蔵新城に住み開きシェアハウス「TACOHAUS」を運営しています。「生きる意味」とは、また、どんなシェアハウスなのか、お話を伺いました。


薬物依存の経験を運営に生かす川崎ダルク支援会の岡﨑重人さん

薬物依存の経験を運営に生かす川崎ダルク支援会の岡﨑重人さん

武蔵新城に特定非営利活動法人 川崎ダルク支援会があります。この団体は、薬物依存症に陥った人たちが依存から回復していく上での支援を行っていますが、理事長の岡﨑重人さん自身、薬物依存の経験の持ち主です。どんな経験をしたのか、またその経験を生かして、川崎ダルク支援会でどんな支援をしているのか、お話を伺いました。


LGBTQであることをオープンにする女子プロボクサー・柳尾美佳さん

LGBTQであることをオープンにする女子プロボクサー・柳尾美佳さん

中原区在住で現在、日本女子プロボクシング第2位の柳尾美佳(やぎお みか)さん。子どもの頃から女性を好きになることに気づき、大学生になって自分がトランスジェンダーであることをはっきりと自覚したそうです。そのことを隠しもせず、逆にSNSでも堂々と「LGBTQプロボクサー」を名乗っているわけをお伺いしました。


マルチな才能を発揮する「KOSUGI CURRY」の奥村佑子さん

マルチな才能を発揮する「KOSUGI CURRY」の奥村佑子さん

映像会社から転身し、一念発起して創作カレー屋を始めた奥村佑子さん。食と映像作品が融合したフードエンターテインメントを提供することが夢だとか。一方で「武蔵小杉カレーフェスティバル」を立ち上げて、大成功させています。また、2019年に食べログ「カレー百名店」に選ばれて以来、川崎市ランキングでは不動の1位に。そのマルチな才能についてお話を伺いました。


最新の投稿


【川崎市】2025年7月のイベント情報

【川崎市】2025年7月のイベント情報

夏本番の7月、川崎市では親子で楽しめるワークショップやフェス、公演など多彩なイベントが目白押しです。多彩なクラフトを楽しんだり、吹き抜ける風にそよぐランタンを見上げたり、音楽や演劇に心を揺さぶられるひとときを、ご家族やお友達とお過ごしください。 ※イベント情報は予告なく変更になる場合がありますので、お出かけ前に必ずイベントや施設の公式HPにて最新情報をご確認ください。


【武蔵小杉】休日に始めたい、女性におすすめの趣味5選

【武蔵小杉】休日に始めたい、女性におすすめの趣味5選

「何か新しいことを始めたいけど、何を選べばいいかわからない…」そんな方に向けて、武蔵小杉で楽しめる女性向けの趣味を5つご紹介します。気軽に始められて、週末がちょっと特別になるような時間の過ごし方を見つけてみませんか?


大人は口出し禁止「こどものまちミニカワサキ」の大城英理子さん

大人は口出し禁止「こどものまちミニカワサキ」の大城英理子さん

大城英理子さんは、もともと大手設計事務所で都市開発の仕事に従事していたそうです。しかし、子育てとの両立に悩んで会社を辞めてから、子どもの成長環境に取り組むようになって出会ったのが「こどものまち」。子どもたちだけでまちづくりをする仕組みに魅了されたそうです。「こどものまちミニカワサキ」にたどり着く道のりと、「こどものまち」がどんなものなのか、お話を伺いました。


住み開きシェアハウス「TACOHAUS」でまちのハブを目指す大塚誠也さん

住み開きシェアハウス「TACOHAUS」でまちのハブを目指す大塚誠也さん

学生時代に「生きる意味」を探しにアフリカまで人類の起源をたどる旅に出た大塚誠也さん。帰国後の就職活動は、旅での体験とのあまりのギャップに違和感を感じてやめて、新卒のフリーランスとして、場づくりの活動に着手。現在はデザイナーをしつつ、武蔵新城に住み開きシェアハウス「TACOHAUS」を運営しています。「生きる意味」とは、また、どんなシェアハウスなのか、お話を伺いました。


薬物依存の経験を運営に生かす川崎ダルク支援会の岡﨑重人さん

薬物依存の経験を運営に生かす川崎ダルク支援会の岡﨑重人さん

武蔵新城に特定非営利活動法人 川崎ダルク支援会があります。この団体は、薬物依存症に陥った人たちが依存から回復していく上での支援を行っていますが、理事長の岡﨑重人さん自身、薬物依存の経験の持ち主です。どんな経験をしたのか、またその経験を生かして、川崎ダルク支援会でどんな支援をしているのか、お話を伺いました。


広告募集ページ
区民ライター募集