「フロール元住吉」でユニークなコミュニティを築く「TONARINO.」

「フロール元住吉」でユニークなコミュニティを築く「TONARINO.」

集合住宅「フロール元住吉」には、管理人兼コミュニティマネージャーの「守人」が常駐し、住民同士のつながりを紡ぎ出しています。また共用部には、カフェ&レンタルスペースがあり、イベント開催など複合的な運営をしているとか。運営に携わるHITOTOWA INC.の田中宏明さんと(株)Yuinchuの大石七奈さんにお話を伺いました。


「守人」が常駐して住民同士をつなげる

―「フロール元住吉」ではどういう業務を行われていますか

田中(HITOTOWA:大きくいって3つの業務をしています。ひとつが管理の窓口で、入居者さんの管理対応として、駐輪場の管理とか、入居に際してのトラブルの一次対応としてご相談を受けたりしています。

 

もう一つが、コミュニティサポートという業務で、入居者の方のマンション内でのコミュニティづくりということで、月に2回ほどイベントを入居者さん向けにやらせていただいています。

 

3つ目が「となりの.」の運営業務ということで、地域交流スペースとしての「となりの.」を運営しています。20245月から名前を「TONARINO. By SWITCH STAND」としてリニューアルオープンしました。

―集合住宅では隣人とのコミュニケーションが疎くなりがちです。その垣根はどう払いますか

田中:まず、1階の共用部に来てもらって、顔を合わせる機会を作れるといいのかなと思っています。また、フロール元住吉では我々、管理人兼コミュニティマネージャーの「守人」(もりびと)が常駐しているので、我々を介して色々な人たちをつないでいきたいと思っています。

レンタルスペースは地域の子どもたちも利用している

―レンタルスペースでどういうイベントをしていますか

田中:レンタルスペースでは特に子育て世帯の方々がご利用になるシーンが多くて、親子サロンや放課後の小中学生くらいのお子さんに向けた習い事などに使っていただいて、地域にとっての居場所として使っていただいています。

 

また、地域の方々に来ていただけるようにマンションのエントランスを使ってのマルシェを定期的に開催しています。カフェに設置したレンタルボックスの作品を販売したり、あるいはワークショップをしてもらったり、地元の野菜を販売したり、キッチンカーに来てもらったりしています。

HITOTOWAの田中宏明さん(左)とYuinchuの大石七奈さん

Yuinchuと連携しカフェ・レンタルスペースの複合的運営を目指す

―カフェやレンタルスペースの運営を株式会社Yuinchu(ユインチュ)と連携されましたね

田中:去年1年間は、弊社が直営のような形でカフェもレンタルスペースもすべて運営していたのですが、ただ、我々はカフェを専門でやっているわけではなかったので、ドリンクやフードづくりをどうやっていけばいいのか迷っていました。

 

そこで、もともと交流のあったYuinchuさんにご相談をさせていただいたのです。去年1年間は、カフェのランチのメニュー開発などをYuinchuさんにお願いしていて、1年間はコラボのような形で始まり、オペレーションの部分もコンサルティングしていただいたのです。

 

1年間やってみて、弊社だけでやるとなると地域の居場所としての目線と事業性といった目線とでは、なかなか両立は難しいという結論が出て、Yuinchuさんに「もし可能であれば、連携していただけませんか」とお願いをしてご快諾を得たということです。

大石(Yuinchu) :そうですね。フロール元住吉のカフェ運営には、去年から運営サポートなどで関わらさせていただきました。

 

まず、私たちの店舗ブランドSWITCH STAND(運営会社:株式会社Yuinchu)のご説明をさせていただきます。

 

SWITCH STANDでは、「継続的にコトが起きる場をつくる」を掲げております。カフェという日常に寄り添った場には、訪れた方々の生活が少し豊かになる装置が不可欠だと感じております。

 

その背景には、それぞれの地域や施設に合った店舗設計や運営方法を最短で固め、ご利用いただくお客様はもちろん、そこに関わる方々と様々なコトを起こし続ける状況が必要だと考えているからです。

 

そして、コトをおこし、一人でも多くの方とコミュニケーションを取るために欠かせないのが、「経済」と「想い」のバランスです。継続的に場の運営をする上で大事なのが、その場の存在意義(想い)とそれを継続させていくための収支(経済)です。

 

私たちも様々な場の立ち上げと運営に携わってきましたが、「経済」と「想い」のバランスを意識し実行できなければ、最適で継続的な場の運営はできないと経験値的に感じているからです。

 

誰でもフラットに訪れることができるカフェのような場で、個人・法人問わず、自分たちの取り組んでいることを展開できるような運営体制を整えて、カフェに訪れたお客様の新たな出会いを創出する環境づくりを行っているのがSWITCH STANDとなります。

 

今回、フロール元住吉のカフェとレンタルスペースという場を持つことになったので、ここに来られるお客様と常にコミュニケーションがとりながら、その顧客の声を活かしてイベントを行います。

 

例えば、SWITCH STANDのブランドを持つ「価値をコミュニティに届けるイベントプランニングサービスonestop」では、既存のクライアントさんなどがいらっしゃるので、その方々が商品を知ってもらいたいときに、その商品をここのカフェに持ってきて、ポップアップするということもやろうと考えています。これは、日常の中に非日常の接点を作ることで顧客満足度も上がるので、定期的に行います。

 

そして、地域イベントも同サービスで運営実績がありますので、守人さんと連携しながら、フロール元住吉の方と元住吉にお住まいの方が「元住吉を好きになる」キッカケを作るテーマを企画していければと思います。

HITOTOWAが提唱する「ネイバーフッドデザイン」とは

―田中さんが在籍されている「HITOTOWA INC.」のビジョンについてお聞かせください

田中:都市の社会環境課題の解決ですね。例えばマンションデベロッパーさんとお仕事をご一緒することが多いですが、ただ単純な開発ではなくて、地域の中でどんな課題があるのか、課題の解決のためにどんなソフトコンテンツが地域にとって重要なのかを調査・検討することからお手伝いをさせていただいています。

―御社が提唱されている「ネイバーフッドデザイン」について教えてください

田中:「ネイバーフッドデザイン」とは、ご近所付き合いを通じた課題解決という考え方です。その中でも我々が一番重要視しているのが、「未来とゴールのデザイン」で、コンセプトとして、街でどんなことが必要とされているのかということを大事にしながら、コミュニティの未来像の設計をしています。

 

次にそのゴールに向かって「機会のデザイン」といって、イベントなどで、例えば「マンションの中でこんなパーティがあるといいよね」とか、あるいは普段の何気ない会話ができる場の在り方を考えながら、企画設定させていただいています。

 

「場所のデザイン」というのもあって、端的に言えばスペースづくりですね。新築の物件だと、どんな共用部にするか、あるいは団地であれば、どんな集会所にするか、住民の方々が求めているスペースは何かいったことを考えています

―「主体性のデザイン」というのもありますね

田中:最終的には街の人たちが自分たちで運営できるようにコミュニティを作るのが、街にとって良いことでもあるので、そのために主体的に関わっていただけるような方々をどう発掘して、仲間としてかかわっていただけるかということを、「主体性のデザイン」として考えています。

―「見識のデザイン」とは

田中:街の人たちに関わってもらうということになると、本当に自分たちの街のことを分かっているかなとか、住宅でいうと管理組合や自治会などの組織を運営するにあたってどんなことを知っていないといけないかということに関してはゼロから始まることが多いのです。

 

ですから、我々が知識を住民の方々にインプットさせていただきながら、運営などを実際に体験してもらって、フィードバックしてもらう流れが重要かなと思っています。

 

これらのデザインを一体的に一気通貫したのが「仕組みのデザイン」です。その場所や物件ならではの仕組みづくりというのをリサーチの段階から始めさせていただいています。

カフェで開催されたクリスマスコンサート

住民が「お客様」にならないようなイベントを開催

―実際に「フロール元住吉」ではこれらのデザインをどう活用されていますか

田中:当初から地域の居場所でありたいという思いがあったので、そのコンセプトとどんな事業をやっていくかということを検討させていただきました。

 

リサーチをする中で、地域に飲食店が少ないとか、子育て世代がベビーカーで入れるお店がなかなかなくて、という話があったので、地域にとって居場所になる、ふらっと気軽に入って、いつの間にか居心地がいいなと思ってもらえるようなそんな場所になればいいねというコンセプトができました。

―機会のデザインでこれをやったというのはありますか

田中:先ほど言ったマルシェとか、ハロウィンなど、イメージしやすい季節の行事としてやらせていただいています。住民の皆様が単なる「お客様」になってしまわないように、いかにコミュニティとして感じてもらうかということで、マンションの住民の方々にも、ハロウィンの仮装をしてもらって、一緒になって盛り上げてもらうなどの工夫もしました。

―「フロール元住吉」ならではの仕組みのデザインはありますか

田中:「守人」という存在がいることが一番大きな仕組みだと思っています。賃貸だけれど管理人が常駐していて、管理窓口の対応もしますが、コミュニティの目線も持っていることが重要だと考えています。

―読者へのメッセージをお願いします

大石:カフェ視点でいうと、ふらっと来ていただいて、どんな場がいいかお聞かせいただければと思っております。

 

田中:僕らもカフェなどに来ていただけたら嬉しいですが、守人としては街に出ていけるようにしたいので、町内会さんとか、地域の関係団体さんとかにも伺わせていただいて、より住民の方々の暮らしの充実ということにもつなげていきたいと思っています。

 

となりの.(TONARINO.)ホームページ:https://www.tonarino-motosumi.jp/

この記事のライター

現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。

関連する投稿


川崎市のまちづくりの仕掛け人・中村茂さん

川崎市のまちづくりの仕掛け人・中村茂さん

川崎市は「音楽のまち」として今年20周年を迎えました。10年前からは、「かわさきジャズ」も開催されています。一方で、「ソーシャルデザインセンター」の設置など新たなまちづくりも推進されてきました。そんな試みの仕掛け人・中村茂さん(川崎市前市民文化局長、現川崎市文化財団理事長)にお話を伺いました。


不登校児に「居場所」を提供する認定NPO法人フリースペース「たまりば」

不登校児に「居場所」を提供する認定NPO法人フリースペース「たまりば」

今の学校教育は150年前につくりだされたもので、制度疲労が起きています。だから学校に行けない不登校児や子どもの自殺が増え続けています。そんな学校や家庭で追い詰められた子どもたちに、「居場所」を提供し続けている認定NPO法人フリースペース「たまりば」の西野博之理事長にお話を伺いました。


日本のタップダンス界をけん引する藤川誠さん

日本のタップダンス界をけん引する藤川誠さん

藤川誠さんは、真田広之さんなどアクションスターに憧れて中学生の時からタップダンスを始めたそうです。日本では活躍の場が少ないタップダンスを盛り上げようと「かわさきタップフェスティバル」を開催するなど、日本のタップダンス界をけん引してきました。そのタップダンス一筋の半生を語っていただきました。


21世紀型コミュニティの再編成に挑む呉哲煥さん

21世紀型コミュニティの再編成に挑む呉哲煥さん

従来の血縁、社縁、地縁が希薄化している現代は、しがらみやわずらわしさから解放されましたが、裏返せば社会の基盤となるセーフティネットのはく奪でもあります。一方で、現在、21世紀型ともいえるコミュニティが生み出されつつあります。その最前線で旗振り役を務めるNPO法人CRファクトリー代表理事の呉哲煥さんにお話を伺いました。


多拠点コミュニティ「ADDress」という新しい暮らし方

多拠点コミュニティ「ADDress」という新しい暮らし方

多拠点コミュニティを提唱するADDress。その武蔵新城A邸の家守を務めるのが横田寛さん(写真・左)と広武真季さん(写真・右)。家守というのは、いわば管理人ですが、ごはん会などを催して地域との交流も盛んだとか。利用目的は様々ですが、ADDressならではの絶妙な距離感が魅力だそうです。


最新の投稿


【川崎市】2024年11月のイベント情報

【川崎市】2024年11月のイベント情報

川崎市エリアの2024年11月のイベント情報をまとめました。市政100周年を記念したイベントや、お子様と一緒に楽しめる企画、さらには美味しいグルメが集まるお祭りなど、さまざまなイベントが開催されます。気になるイベントがあればぜひ参加してみてください! ※イベント情報は予告なく変更になる場合がありますので、お出かけ前に必ずイベントや施設の公式HPにて最新情報をご確認ください。


川崎市のまちづくりの仕掛け人・中村茂さん

川崎市のまちづくりの仕掛け人・中村茂さん

川崎市は「音楽のまち」として今年20周年を迎えました。10年前からは、「かわさきジャズ」も開催されています。一方で、「ソーシャルデザインセンター」の設置など新たなまちづくりも推進されてきました。そんな試みの仕掛け人・中村茂さん(川崎市前市民文化局長、現川崎市文化財団理事長)にお話を伺いました。


不登校児に「居場所」を提供する認定NPO法人フリースペース「たまりば」

不登校児に「居場所」を提供する認定NPO法人フリースペース「たまりば」

今の学校教育は150年前につくりだされたもので、制度疲労が起きています。だから学校に行けない不登校児や子どもの自殺が増え続けています。そんな学校や家庭で追い詰められた子どもたちに、「居場所」を提供し続けている認定NPO法人フリースペース「たまりば」の西野博之理事長にお話を伺いました。


中原区の「子どもの発達支援セミナー」で悩みや不安を解消しよう!

中原区の「子どもの発達支援セミナー」で悩みや不安を解消しよう!

中原区では、子どもの発達に関する悩みを抱える保護者の方に向けた「子どもの発達支援セミナー」を定期的に開催しています。この記事では、セミナーの内容や参加方法、令和6年度の開催日程についてご紹介します。


日本のタップダンス界をけん引する藤川誠さん

日本のタップダンス界をけん引する藤川誠さん

藤川誠さんは、真田広之さんなどアクションスターに憧れて中学生の時からタップダンスを始めたそうです。日本では活躍の場が少ないタップダンスを盛り上げようと「かわさきタップフェスティバル」を開催するなど、日本のタップダンス界をけん引してきました。そのタップダンス一筋の半生を語っていただきました。


区民ライター募集