■あえてひらがなの「こくご」にしたわけ
―なんで国語に限定されたのですか
笹山:国語が得意な子でも、ただまとめることだけはできても、自分の意見を書けない子が多いのです。今の日本の若者の間では、意見をはっきり言うと叩かれるみたいな雰囲気があります。しかし、自分の意見をきちんと言うことさえできなければ、自分の意見を文字にして書けないだろうと思ったのです。
そこで、それこそが一番大事じゃないかなと思ってこの塾を始めました。作文教室とは言っていますが、メインはどんな形でもいいから自己表現を伸ばす場にしたいのです。
また、こくごレストランの「こくご」はひらがなです。これには意味があります。「国語」にしてしまうと学習のみの意味合いが強くなります。「こくご」は、生活全般、または頭のなかで日々考えていることをふくめます。それを文章にしてみよう!自己表現してみよう!ということです。
いろんなことを含んだ「こくご」をレストランで料理する。話す、文章にする、絵にする、踊ってみる…それがこくごレストランです。
―「こくごレストラン」を小学生に限定したのはなぜですか
笹山:中学生だと作文を書くためのテクニックを教わりたいという子どもはいると思います。またそのための塾もたくさんあります。私は中学生になる前に、お子さんにもサードプレイス(家庭と学校以外の第3の場)を持ってもらい、そこで、ちゃんと自分の意見を言える場を作ってほしくって。
自分の中身を言える場所がなければ自分の中身は出てこないし、それを書こうとも思いません。中学生にはその時間はないな、と思ったのです。自己表現の塾にわざわざ通わせようとは親御さんも思わないのでは。また、中学生ぐらいになれば、テクニックでなんとか作文は書けてしまいます。
一方、小学5年生ぐらいになると、生徒が急に私に敬語を使いだします。周りの環境で大人になるんですね。逆に小学1~2年生だと文字がおぼつきません。小学3~4年生が、一番ストレートに思ったことを言えて書ける時期なんです。
生徒たちそれぞれが自分の言葉を紡ぎ出す
■自分でも気がつかない「個性」を見つけてほしい
―授業で自己表現を大事にされていますが、もう少し具体的には
笹山:「余談」を大事にしています。塾の授業ではないところで私が話したことに対して、この子たちが話してくれたことってとても大事なのです。そこにその子たちの一番好きなものや嫌いなものが入っていて、そこの時間だけを今は授業に持ってきたという感じです。
ですから、私の授業では、いきなり書き始めることはしません。小さい紙に単語だけ書いて、たとえば「今日」、「お母さん」、「おだんご」と書いてもらって立って発表してもらいます。
椅子に座ったままだと好きなことを言いますが、いざ、立って発表するとなると、そういえば団子屋さんが出ていて、アイスも売っていたとか、アイスの横には犬がいて、犬がアイスを食べていてびっくりしたとか、そういうことが発表の中で出てきます。それを発表させてから書いてというと、そういうことが書けたりします。
つまり、本人が忘れていたけれど、行った時には色々なことを考えていて、様々なエピソードがあるんだけれど、ただ作文用紙に向かっただけでは、そういったエピソードが思い出せない。でも、しゃべっていると思いだせるというのを実際にはやっています。
―テーマを与えたりはしないのですか
笹山:テーマを与えるときもあります。テーマといっても大きくて、「夏休み」とか。「夏休み面白かったこと3つ書いて」と言って、書いてもらい、「その中で一番話したいのはどれ?」と尋ねて、挙げてもらい、「それに対して単語を何個か書いて」と言い、それを順番に発表してもらいます。
余談で誰かの話が面白くて盛り上がってみんなが発言しているときは、それも大事にしているので、メモや発表で終わったときは、作文が翌月になることもあります。最初が短くて作文の時間が長い時もあるし、色々なバターンがあります。
―今の学校教育の問題点はなんでしょうか
笹山:小学校の多人数での集団授業は問題だと思います。せめて半分とか、ひとクラスに3つとか。たぶん、座っているだけの子がいるはずです。もうすこし小さめのグループに分けて授業をしたり、自分の意見が言える授業をもう少し増やしてほしいと思います。
ですから、私の塾では、少人数クラスをモットウに1クラス最大5名までにしています。それには意味があります。学校の大人数のなかでは埋もれてしまうお子さんの個性を発掘するお手伝いをしているからです。自分でも気がつかない「個性」を見つけてほしいのです。
オリジナルの紙芝居も開催
■逆境でも立ち上がる方法を身に着ける
―生徒さんにはどんな人間になってほしいですか
笹山:私は文章を書くのが好きなので、たとえば何か逆境に至ったときに本を読むとか、文章を書くとか、そういう世界もあるなと思い出してほしいですね。でも、なんでもいいんです。ものを書くのが苦手な生徒もいるかもしれないので、そうしたら音楽でもいいし絵でもいいし、趣味でもいいし…逆境に立った時にそこから立ち上がる方法を身に着けてほしいと思っています。
生きていくためには、一番それが大事だと思っています。それができる子になってほしいです。何か絶対その子の得意分野があるはずだから、それを自分で自己肯定していってほしいです。
―紙芝居をオリジナルで創って開催されていますね
笹山:紙芝居はもともと塾のPRで始めましたが、本当は仕事として続けたかったのです。紙芝居って、どうしてもボランティアというイメージが強いですが…。以前は、駄菓子屋さんで月に2回、定期的にやっていましたが、コロナ禍と介護で一回止めていました。昨年、ぼちぼちと何回か開催しましたが、今年は塾に重心を置いて、その中で、開催できたらと考えています。
なぜオリジナルかというと、動画でネット上にあげるときに、既存のストーリーや歌などを借用すると著作権にちょっと引っかかるのです。ですからオリジナルならば安心というわけです。自分や私の家族のことを書いたものや行事について書いたもの、著作権が絡まない民話をベースにした紙芝居などを作りました。
―今後はどう展開されていきますか
笹山:塾をもっと盛り上げたいですね。ただ、私が来てほしい生徒さんというのは、どちらかというとクラスの中で、ちょっとおとなしすぎたり、しゃべりすぎちゃう子たちで、私の塾のコンセプトを分かってきてくださっています。
ですから、私の塾はこういうことをしているんだよとちゃんとアピールして、それを理解していただいた上で来てほしいと思っています。本来であれば、学校に行けない子どもたちとかにも来てほしいですね。
―読者へのメッセージをお願いします
笹山:作文を上手に書くだけであれば、そのテクニックを教える塾は色々あります。でも、親御さんも本人も気づかない心の中を表に出せるようにするお手伝いをするのがこくごレストランなので、そのコンセプトに共感してくれる親御さんがいましたならば、ぜひお待ちしております!
国語作文教室「こくごレストラン」ホームページ
https://resutorankokugo.jimdofree.com/
現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。