「孤立死を予防」電話で傾聴するボランティアグループ「モモの会」

「孤立死を予防」電話で傾聴するボランティアグループ「モモの会」

社会的に「孤立死」が大きくクローズアップされる時代になってきました。そこで始められたのが、自宅でもできる電話で傾聴するボランティアとのことです。

一人暮らしの方が話すことで心が安らぐ、あるいは少しでも孤独感が癒されることを目指しているそうです。傾聴で大事なことは、否定的せず、批判もしないで、積極的な関心を持って話を聞くこととか。

電話で傾聴するボランティアグループ「モモの会」代表の相澤ミチ子さんにお話を伺いました。


きっかけはカウンセリングの勉強をしたこと

―原点は80年代に心理カウンセラーを目指したことにおありだそうですね

 相澤80年代は、我が子が小中学校に行っている時期でしたが、その当時、中学校が全国的に荒れていました。長女が小学校に通っていたのですが、ある時、学校に行けなくなったんです。先生が男子生徒を怒るときに定規を使って叩いていたのを見ていたら、怖くなってしまったそうです。

 

教室に40人程度の生徒がいて、自分の子どもだけが学校に行けなくなったということで、私の育て方が悪いのではないかとか、思わずにはいられませんでした。

 

子どもは一週間ほどで元に戻りましたが、図書館に通って勉強をし、カウンセラーという職業を知りました。その後、何年かして、社会福祉協議会に出入りしていると、その中のひとりで電話相談をしている人がいて、私もやってみたいなと思いました。

その方にどこで勉強したのかと尋ねたら、カウンセリングを勉強したところを教えていただきました。そこで8年程勉強し、心理カウンセラーになったのがきっかけでした。通った学校の先生からは公認の資格はなくとも「(資格は)クライアントから貰いなさい」という言葉に感銘を受け、その言葉が、今も私の支えになってます。

 

―モモの会は2015年に設立されましたが、どうつながりますか

 

相澤:カウンセリングを勉強したときに、そこで勉強を終えた卒業生たちは実際にカウンセラーとして働いていました。そこで一緒に何年か働いたのちに、自分たち同期でカウンセリングルームを立ち上げましたが、コロナ禍で閉設しました。

 

川崎に転居後、社会的に「孤立死」が大きな問題になってきて、川崎市でも「孤立死」問題が起きていて、何か予防を出来ないかと、一人暮らしの方、家から出にくい状況の方に電話をすることを思いつきました。

 

そこで地域包括支援センター長に呼びかけていただいたところ、社会福祉協議会の方、民生委員、ヘルパーステーションの方々が話を聞いて下さり、紹介もして下さいました。

「事例検討」の勉強会

設立メンバーは傾聴経験者とカウンセラー

―今、運営メンバーは何人いらっしゃいますか。

 

相澤:総勢で18人います。最初は5人でスタートしたのですが、徐々に人が増えました。コロナ禍が始まった2020年から皆さんにお声がけしたり、講座を開いてそこから募集したりして増やしていきました。

 

―もともとの5人というのは、どういう方々ですか

 

相澤:かわさき市民アカデミーの傾聴講座を終えられた方で、川崎市のネットワークに属している方々が二人で、ほかの3人はカウンセリングの勉強をされていた方々です。

 

―他の運営メンバーはどういった方々ですか

 

相澤:かわさき市民アカデミーで毎年、傾聴講座が開かれていて、講座終了後にグループができ、社会福祉協議会に、「ネットワーク川崎」という傾聴ボランテイアのネットワークができています。その講座修了者の方や、電話相談経験者などが運営メンバーです。

 

―お声がけは社会福祉協議会や区役所を通じてされたのですか

 

相澤:簡単なチラシを用意して、コロナ禍の間、あちこちに配りに行きました。地域包括支援センターには、社会福祉協議会を通じて川崎市内7つの区にチラシを置いていただきました。

あくまでも相手の話を聞くことに徹する

―傾聴で大事なことはどんなことでしょうか

 

相澤:相手の方の話に耳を傾けることですね。お話を聞いているときに、自分でも同じような体験がよみがえってくることがあり「それって…」とつい自分の話をしてしまいがちです。

 

しかし、そうではなくて、あくまでも相手の方のお話を聞くことに徹することが一番大事です。また、否定や批判をせず、話の筋だけではなく、お相手の気持ちを聴くことが大事だと思ってます。

 

とはいえ、ずっと黙っていたら、「私の話に大して興味を持っていないな」と思われてもいけないので、積極的な関心の気持ちで聞くことが大切です。これをアクティブ・リスニングといいます。

 

―モモの会にはモットーがあるそうですね。筆頭は「孤独死」の予防ですが

 

相澤:誰しも亡くなるときは独りですが、耳は最後まで聞こえているといわれています。亡くなった母が一番喜んでいたのは、みんなと話をしているときだったなと思ったのです。ですから、一人暮らしの方が電話で話すことで、気持ちが安らかになるというか、孤独感が少しでもなくなるといいなと思いました。

―一方で、研修会も定期的に開催されているそうですね

 

相澤:「電話傾聴の基本を学ぶ」という講座や事例検討の勉強会を開いています。傾聴の講座はかわさき市民アカデミーなどで開かれていますが、そういう方々にお声がけすると、「やってみたい」という方や「電話で傾聴するのは不安がある。知らない方と話をするのは遠慮したい」という反応もあります。

 

そこで、電話で傾聴するというのがどういうことかを、みなさんに関心を持ってもらうということと、面談での傾聴と電話で傾聴することの違いは多少あるが、気持ちを聴くことにはあまり違いがないと知って貰いたいと思い、毎年、講座を開いています。

「マインドフルネス入門」の講演会

自宅で孤立している方に手を差し伸べる

―対面と電話とではやはり違いがあるのでしょうか

 

相澤:違いは表情ですね。表情が読み取れないと心の機微が伝わってきません。面談している人でしたら、沈黙している場合でも、顔の向きとか目つきで、どういう沈黙かを推し量れますが、電話の場合は沈黙されると、「なにか変なことを言ってしまったかな」とか「気に障ったかしら」とか気をもんでしまいます。

 

―それでもあえて電話傾聴をされる理由は

 

相澤:私も面談での傾聴をした経験があり、有料の老人ホームなどに行っていましたが、その方たちはある意味で守られたところにいる方々です。常に職員さんやお仲間に囲まれています。

 

しかし、そういうところに行けない方、外にも出られない方なども大勢います。孤独死などを考えたときに、施設に入られている方は、亡くなったときにもすぐに見つけてもらえますが、そうではない方に手を差し伸べたいと思っているのです。それが私の想いの中では大きかったです。

電話では「普通の話」をする

―電話をかけてこられる方々はどういった内容のお話が多いのですか

日常のお話し、近所付き合いの難しさとか、夫との関係、親子関係、病気の辛さなどが多いです。

 

―やはり高齢者の方が多いのですが

 

相澤:高齢者の方が多いことを予想していましたが、意外なことに精神的なご病気を持っていらっしゃる若い方も多いです。ご病気を持っていると、人と話す機会が少ない、コミュニケーションがうまくとれないのかもしれません。

 

印象に残ったのが、「ふだん私が話すのは、ヘルパーさんやお医者さん、ケアマネージャーさんばかりですが、私は、普通の話がしたいので電話しました」と言われたことです。

―電話は受けるだけではなくて、電話をかけるサービスもありますね

 

相澤:お一人暮らしで話相手がいない方、息子さんが一人暮らしの母親のために、自分がなかなか連絡できないのでかわりに頼まれる方や、仕事をしている娘さんから病気のお母さんにといったケースがあります。

また、目の不自由な方など、あるいは施設に入っていて頭はしっかりしているけれど、足の具合が悪く外に出られない方などに電話を差し上げています。

 

男性の方にも電話かけていますが、元気だよ、これから○○する、明日は○○に外出するとか短い会話が多いですね。あとは、奥さんが施設に入ってしまったとぼやく方もいらっしゃいます。

 

―認知症の方を対象にした電話傾聴も考えていらっしゃるとか

 

相澤:勉強はしました。まだ認知症の方を対象にした電話傾聴はしていませんが、時々、もしかしたら認知症かもしれないという方はいらっしゃいます。運営メンバーに認知症サポーターは大勢いるので、分野を広げていきたいとは思っています。

 

―読者の方にメッセージをお願いします

 

相澤:気軽にモモの会に電話をしていただきたいと思っています。最近、誰ともしゃべっていないとか、誰か自分の話を聞いて欲しいとか、毎日が楽しくないとか、何となく不安とか、何でもいいので、お電話ください。

また、会員も募集しています!

 

電話番号(秘密厳守):080-6692-2475

曜日:月・火・水・金

時間:10時~12時半、13時~16(130分ほど)

お休み:木・土・日・祝祭日、12/281/3

 お問合わせ:080-5986-7663

この記事のライター

現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。

関連する投稿


子ども・保護者、教師をカウンセリングなどで包括的に支える「実りの森」

子ども・保護者、教師をカウンセリングなどで包括的に支える「実りの森」

子どもの自殺や不登校児童が増え続ける一方で、教師の精神疾患での休職・離職も増加の一途。学校現場は、危機的状況に瀕しています。行政も制度的に手を尽くしてはいるものの、その手が届かない方々もいます。そんなすき間を埋めるためにカウンセリングなどで立ち上がったのが一般社団法人「実りの森」。代表理事の西野薫さんにお話を伺いました。


武蔵小杉のエンターテナーAshさんの「人生劇場」

武蔵小杉のエンターテナーAshさんの「人生劇場」

武蔵小杉在住で、俳優業、文筆業、琵琶語りと多才ぶりを発揮しているAsh(アッシュ)さん。東京藝術大学時代に演出家の宮城聰さんと出会い、彼の劇団で本格的に演出を学んだとか。現在は、もっぱら俳優として演劇を追求しつつ、Yahoo!ニュースのライターとして、地域の文化情報を発信する日々だそうです。


マーケティングを駆使してコミュニティを開拓する土倉康平さん

マーケティングを駆使してコミュニティを開拓する土倉康平さん

今や5000人を超えるメンバーを集めるFacebookコミュニティ「中原おうちごはん」を立ち上げ、武蔵新城では、マスター&ママが日替わりで交代するユニークなバー「新城サカバー」を開き、コミュニティをどんどん開拓している「つっちー」こと土倉康平さん。その背景には、本業のマーケティング・コンサルタントとしてのセンスとロジックがあるようです。


武蔵新城の大家として街をプロデュースする石井秀和さん

武蔵新城の大家として街をプロデュースする石井秀和さん

武蔵新城の地主で大家として不動産業を営む石井秀和さん。バブルがはじけてから家業を継いだ際には、どうしたらお客さんをつかまえられるかと悩んだ日々だったそうですが、今は武蔵新城に住みたい人を増やせば、自社の物件も自然に決まるはずだと、街全体の魅力を高めることに注力しているとか。街のプロデューサーとしてお話を伺いました。


お父さん同士のつながりで地域を豊かにする「川崎パパ塾」

お父さん同士のつながりで地域を豊かにする「川崎パパ塾」

パパとして自分を育てる学びの場が「川崎パパ塾」。「市民講師」として、お父さん同士が講師になって自らの経験を話すことで、切磋琢磨しているそうです。14年の長きにわたって活動してきましたが、無理に後継者を育てようとはしていないとか。代表の市川毅さんにお話を伺いました。


最新の投稿


川崎市「こども誰でも通園制度」の試行的事業がいよいよ開始

川崎市「こども誰でも通園制度」の試行的事業がいよいよ開始

川崎市は、2024年7月から「こども誰でも通園制度」の本格実施を見据えた試行的事業を開始しました。この制度は、保護者の就労有無に関わらず、一定時間保育所を利用できるものです。この記事では、制度の詳細や予約方法についてご紹介します。


子ども・保護者、教師をカウンセリングなどで包括的に支える「実りの森」

子ども・保護者、教師をカウンセリングなどで包括的に支える「実りの森」

子どもの自殺や不登校児童が増え続ける一方で、教師の精神疾患での休職・離職も増加の一途。学校現場は、危機的状況に瀕しています。行政も制度的に手を尽くしてはいるものの、その手が届かない方々もいます。そんなすき間を埋めるためにカウンセリングなどで立ち上がったのが一般社団法人「実りの森」。代表理事の西野薫さんにお話を伺いました。


中原区内で一時保育を実施している施設②(認可外保育所・その他)

中原区内で一時保育を実施している施設②(認可外保育所・その他)

前回は一時保育を実施している認可保育所を取り上げましたが、今回は認可外保育所やその他の施設を調べてみました。


中原区内で一時保育を実施している施設①(認可保育所)

中原区内で一時保育を実施している施設①(認可保育所)

親の就労関係なく子供を預けられる「一時保育」を実施している中原区内の施設(認可保育所)を調べてみました。


食べる力を育てよう!川崎市中原区の親子向け離乳食・幼児食教室

食べる力を育てよう!川崎市中原区の親子向け離乳食・幼児食教室

川崎市中原区では、乳幼児の保護者を対象に、離乳食・幼児食に関する対面教室を開催しています。各教室は、年齢や進行段階に応じた内容で、栄養士が丁寧に指導します。この記事では、教室の詳細や申し込み方法についてご紹介します。


区民ライター募集