■きっかけはカウンセリングの勉強をしたこと
―原点は80年代に心理カウンセラーを目指したことにおありだそうですね
相澤:80年代は、我が子が小中学校に行っている時期でしたが、その当時、中学校が全国的に荒れていました。長女が小学校に通っていたのですが、ある時、学校に行けなくなったんです。先生が男子生徒を怒るときに定規を使って叩いていたのを見ていたら、怖くなってしまったそうです。
教室に40人程度の生徒がいて、自分の子どもだけが学校に行けなくなったということで、私の育て方が悪いのではないかとか、思わずにはいられませんでした。
子どもは一週間ほどで元に戻りましたが、図書館に通って勉強をし、カウンセラーという職業を知りました。その後、何年かして、社会福祉協議会に出入りしていると、その中のひとりで電話相談をしている人がいて、私もやってみたいなと思いました。
その方にどこで勉強したのかと尋ねたら、カウンセリングを勉強したところを教えていただきました。そこで8年程勉強し、心理カウンセラーになったのがきっかけでした。通った学校の先生からは公認の資格はなくとも「(資格は)クライアントから貰いなさい」という言葉に感銘を受け、その言葉が、今も私の支えになってます。
―モモの会は2015年に設立されましたが、どうつながりますか
相澤:カウンセリングを勉強したときに、そこで勉強を終えた卒業生たちは実際にカウンセラーとして働いていました。そこで一緒に何年か働いたのちに、自分たち同期でカウンセリングルームを立ち上げましたが、コロナ禍で閉設しました。
川崎に転居後、社会的に「孤立死」が大きな問題になってきて、川崎市でも「孤立死」問題が起きていて、何か予防を出来ないかと、一人暮らしの方、家から出にくい状況の方に電話をすることを思いつきました。
そこで地域包括支援センター長に呼びかけていただいたところ、社会福祉協議会の方、民生委員、ヘルパーステーションの方々が話を聞いて下さり、紹介もして下さいました。
「事例検討」の勉強会
■設立メンバーは傾聴経験者とカウンセラー
―今、運営メンバーは何人いらっしゃいますか
相澤:総勢で18人います。最初は5人でスタートしたのですが、徐々に人が増えました。コロナ禍が始まった2020年から皆さんにお声がけしたり、講座を開いてそこから募集したりして増やしていきました。
―もともとの5人というのは、どういう方々ですか
相澤:かわさき市民アカデミーの傾聴講座を終えられた方で、川崎市のネットワークに属している方々が二人で、ほかの3人はカウンセリングの勉強をされていた方々です。
―他の運営メンバーはどういった方々ですか
相澤:かわさき市民アカデミーで毎年、傾聴講座が開かれていて、講座終了後にグループができ、社会福祉協議会に、「ネットワーク川崎」という傾聴ボランテイアのネットワークができています。その講座修了者の方や、電話相談経験者などが運営メンバーです。
―お声がけは社会福祉協議会や区役所を通じてされたのですか
相澤:簡単なチラシを用意して、コロナ禍の間、あちこちに配りに行きました。地域包括支援センターには、社会福祉協議会を通じて川崎市内7つの区にチラシを置いていただきました。
■あくまでも相手の話を聞くことに徹する
―傾聴で大事なことはどんなことでしょうか
相澤:相手の方の話に耳を傾けることですね。お話を聞いているときに、自分でも同じような体験がよみがえってくることがあり「それって…」とつい自分の話をしてしまいがちです。
しかし、そうではなくて、あくまでも相手の方のお話を聞くことに徹することが一番大事です。また、否定や批判をせず、話の筋だけではなく、お相手の気持ちを聴くことが大事だと思ってます。
とはいえ、ずっと黙っていたら、「私の話に大して興味を持っていないな」と思われてもいけないので、積極的な関心の気持ちで聞くことが大切です。これをアクティブ・リスニングといいます。
―モモの会にはモットーがあるそうですね。筆頭は「孤独死」の予防ですが
相澤:誰しも亡くなるときは独りですが、耳は最後まで聞こえているといわれています。亡くなった母が一番喜んでいたのは、みんなと話をしているときだったなと思ったのです。ですから、一人暮らしの方が電話で話すことで、気持ちが安らかになるというか、孤独感が少しでもなくなるといいなと思いました。
―一方で、研修会も定期的に開催されているそうですね
相澤:「電話傾聴の基本を学ぶ」という講座や事例検討の勉強会を開いています。傾聴の講座はかわさき市民アカデミーなどで開かれていますが、そういう方々にお声がけすると、「やってみたい」という方や「電話で傾聴するのは不安がある。知らない方と話をするのは遠慮したい」という反応もあります。
そこで、電話で傾聴するというのがどういうことかを、みなさんに関心を持ってもらうということと、面談での傾聴と電話で傾聴することの違いは多少あるが、気持ちを聴くことにはあまり違いがないと知って貰いたいと思い、毎年、講座を開いています。
「マインドフルネス入門」の講演会
■自宅で孤立している方に手を差し伸べる
―対面と電話とではやはり違いがあるのでしょうか
相澤:違いは表情ですね。表情が読み取れないと心の機微が伝わってきません。面談している人でしたら、沈黙している場合でも、顔の向きとか目つきで、どういう沈黙かを推し量れますが、電話の場合は沈黙されると、「なにか変なことを言ってしまったかな」とか「気に障ったかしら」とか気をもんでしまいます。
―それでもあえて電話傾聴をされる理由は
相澤:私も面談での傾聴をした経験があり、有料の老人ホームなどに行っていましたが、その方たちはある意味で守られたところにいる方々です。常に職員さんやお仲間に囲まれています。
しかし、そういうところに行けない方、外にも出られない方なども大勢います。孤独死などを考えたときに、施設に入られている方は、亡くなったときにもすぐに見つけてもらえますが、そうではない方に手を差し伸べたいと思っているのです。それが私の想いの中では大きかったです。
■電話では「普通の話」をする
―電話をかけてこられる方々はどういった内容のお話が多いのですか
相澤:日常のお話し、近所付き合いの難しさとか、夫との関係、親子関係、病気の辛さなどが多いです。
―やはり高齢者の方が多いのですか
相澤:高齢者の方が多いことを予想していましたが、意外なことに精神的なご病気を持っていらっしゃる若い方も多いです。ご病気を持っていると、人と話す機会が少ない、コミュニケーションがうまくとれないのかもしれません。
印象に残ったのが、「ふだん私が話すのは、ヘルパーさんやお医者さん、ケアマネージャーさんばかりですが、私は、普通の話がしたいので電話しました」と言われたことです。
―電話は受けるだけではなくて、電話をかけるサービスもありますね
相澤:お一人暮らしで話相手がいない方、息子さんが一人暮らしの母親のために、自分がなかなか連絡できないのでかわりに頼まれる方や、仕事をしている娘さんから病気のお母さんにといったケースがあります。
また、目の不自由な方など、あるいは施設に入っていて頭はしっかりしているけれど、足の具合が悪く外に出られない方などに電話を差し上げています。
男性の方にも電話かけていますが、元気だよ、これから○○する、明日は○○に外出するとか短い会話が多いですね。あとは、奥さんが施設に入ってしまったとぼやく方もいらっしゃいます。
―認知症の方を対象にした電話傾聴も考えていらっしゃるとか
相澤:勉強はしました。まだ認知症の方を対象にした電話傾聴はしていませんが、時々、もしかしたら認知症かもしれないという方はいらっしゃいます。運営メンバーに認知症サポーターは大勢いるので、分野を広げていきたいとは思っています。
―読者の方にメッセージをお願いします
相澤:気軽にモモの会に電話をしていただきたいと思っています。最近、誰ともしゃべっていないとか、誰か自分の話を聞いて欲しいとか、毎日が楽しくないとか、何となく不安とか、何でもいいので、お電話ください。
また、会員も募集しています!
電話番号(秘密厳守):080-6692-2475
曜日:月・火・水・金
時間:10時~12時半、13時~16時(1回30分ほど)
お休み:木・土・日・祝祭日、12/28~1/3
お問合わせ:080-5986-7663
現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。