若者につながりつなげる居場所を提供する「ブリュッケ」

若者につながりつなげる居場所を提供する「ブリュッケ」

武蔵新城にある川崎若者就労・生活自立支援センター「Brücke」(ブリュッケ)のセンター長をされている三瓶三絵さんは、40代までに15回も転職をして、「何とかなる力」を身に着けたとか。今はその経験を活かして、生活に行き詰っている若者たちの支援に邁進しています。若者たちにどんな居場所を提供し、就労支援をしているのか、お話を伺いました。


転職を繰り返し「何とかなる力」を身に着ける

―40代までに15回、転職を繰り返されたそうですね

三瓶:それぐらい普通じゃないかと思っていたのですが、かなりびっくりされます。派遣社員としての時期もあるので、15カ所いろんな事業所を渡り歩いたということですね。

―その中で、特に印象に残った職場はどちらですか

三瓶:アイバンクの職場が印象的でした。千葉県の大学病院の眼科にあるアイバンクに勤めることになり、20代前半、そのアイバンクで角膜移植のコーディネーターの仕事をしました。この仕事は24時間体制で呼び出しがかかり徹夜も当たり前、肉体的に過酷でした。さらに当時20歳そこそこの私は、遺族の方と向き合っても、お話を聞くということができず、精神的なプレッシャーも大きかったのです。

 

そのようなことが何度かあって、ひどい睡眠障害に陥ってしまい、その仕事は辞めました。ただ、ちゃんと人の話を聞ける人間になりたいなとか、人の話を聞くことを仕事にできたらいいなという思いは残りました。

―転職を繰り返して、得たものは何でしょうか

三瓶:私の中では、何とかなる力が高まったと思います。色んな場に身を投じてきて、結果、まぁ何とかなる…自分の持っている力の範囲内でなんとかなるんですね。人は何度でも立ち直れる、生き直すことができると自分の経験からそう思っています。

苦難の連続だったアイバンク時代の三瓶三絵さん(右下)

無理に就労させることが若者を孤立化させる

―ソーシャル・ワーカーになろうというきっかけはあったのですか

三瓶:アイバンクに勤めていた時から、ずっと頭の片隅には、人の話を聞く仕事をしようという思いがありました。そこで産業カウンセラーの資格を取り、産業カウンセリング協会の「こころの耳」という厚生労働省の委託事業の事務局の事務職として雇っていただけました。その仕事をやりながら、精神保健福祉士の資格を取り、ソーシャル・ワーカーとして社会福祉法人に転職しました。それが、10年前です。

―ブリュッケとの出会いはどのようなものでしたか

三瓶:社会福祉法人で障がい者の就労支援をしていたのですが、支援をすることで、逆に彼らを社会から切り離してしまうといったジレンマに陥っていました。その時、たまたま認定NPO法人フリースペースたまりばの理事長で、青少年の居場所づくりや就労・自立支援事業(ブリュッケ)をしている西野博之さんの本を読んで、「この世界に、ぜひ私も入ってみたい!」と思って飛び込みました。

扉の向こうに若者たちの「居場所」がある

―若者の就労支援でもジレンマがあったそうですね

三瓶:働きだせばイコール自立という風潮がありますが、自分たちの力では社会とつながり切れない若者たちを、無理に就労につなげることで、その若者を孤立させてしまっています。就労支援というのは、働く本人にどれだけ主体性が持たせることができるかが大事です。

 

私も転々と転職をしてきて、結局、自分の中にずっと種火のようにあった「人の話を聞く」というところに火がついて、今に至っています。なので、自分は何をしたいのかが分からない若者たちに、一方的に働くことを支援するって一体何だろうと思っていました。

―ところで仕事が長続きする人には「故郷」があるそうですね

三瓶:いつでも戻ってこられる居場所、働いていようと働いていまいとあなたはあなたのままでいいんだよと言ってくれる場所ですね。そういう場を持つ人は、いきなり就労のレールに乗った人よりも回り道をしているようで、立ち直れる力がついているんだなと思います。

 

誰かに自分を信じてもらえる、あるいは誰かを信じることができる場所、「故郷」というのはそういう場でもあります。そういう居場所づくりの支援を自分もしてみたいと思っています。

心地よい居場所で完結してはいけない

―ブリュッケを訪れるのはどういう若者たちですか

三瓶:ブリュッケは川崎市の事業として行っていて、生活保護受給者および生活困窮の若者たちを対象にしている居場所と就労支援です。ただ、働きたくないというわけでは決してなくて、社会とつながるきっかけみたいなものがつかめない若者が多いですね、自分のペースみたいなものや、人とつながることにようやく安心感が持てたときに社会とつながる入り口に立てるのだと思います。

ブリュッケで若者たちは思い思いに過ごす

―ある時、「就労支援はしない」と宣言されたそうですね

三瓶:人に探してもらった仕事って、やはり大事にしないんです。仕事って探すところから始まっています。就労支援というのが、その人に合った仕事を誰かほかの人が見つけて来てくれるみたいな誤解があってはいけないなと思い、ちょっと極端ですが、そういう宣言をしたことがあります。ただ、実際のところは、地域の中で色々と働く体験ができるような就労支援を手厚くやってはいます。

―ブリュッケは若者にとってどういう居場所ですか

三瓶:他者を通じて、自分自身を知っていく場所でしょうか。ありのままの自分でいれる場所であってほしいけれど、わざわざ外に出てくるのは、おそらくそこに他者がいるということがとても大きい。ですから、まずは他者を知る場所なんだと思います。

 

私は、つながるとつなげるということをすごく自分の中の居場所として一番大事にしているのですが、生活保護受給、生活困窮の状況にある若者たちと出会い、経済的な困窮が社会へつながる力そのものを奪っている現実を知りました。

 

そういう進学と就労というレールに乗れない若者たちって、すごく簡単にアンダーグラウンド化してしまうのです。これだけ相談する先が福祉にも民間にもあるのに、そこに行かずに闇バイトに行ってしまうわけです。ブリュッケの若者たちだって、そういう闇に行かないとは言えないです。すぐそこにSNSがあって、つながりやすいと思われてしまいます。そういう危機感は感じます。

 

ですから、心地よい居場所ということでブリュッケとつながっても、ここで完結してはいけないと思っています。ここで停滞するのではなく、やはり自分たちのペースやリズムをつかんでいきながら、社会とつながってほしい。だからブリュッケは、つながりつなげる居場所です。

様々な「居場所」が用意されている

横のつながりを広げ「地縁」を再び創り上げる

―これからの自立は横につながっていくものだそうですね

三瓶:たとえば、地元・武蔵新城の訪問介護ステーションで就労体験を積み、保育園で有償ボランティアをするなどしていると、地域に知っている人が増えてきます。横にどれだけ自分の世界を広げていくか、自分の居場所を広げていくかが重要だと思っています。それが故郷づくりというイメージです。昔はあった「地縁」を再び創り上げると言ってもいいかと思います。

 

今、若者たちは不満よりも不安を抱えているなとすごく感じます。自分たちで何とかしなさいという自己責任論が蔓延しすぎて、レールから外れたら、あとは全部自分の責任だということが、若者たちを孤立に追い込んでいます。若者たちの貧困は、目を背けてはいられない深刻な社会課題になっています。

―今後の抱負を教えてください

三瓶:色々なことを正直な気持ちで面白がってやっていければいいなと思っています。15回も転職して凸凹な人生ですが、振り返ると、どの職も面白かったですね。無駄な経験はなかったので、これからも十分、楽しんで面白がって生きていきたいと思っています。

―読者へのメッセージをお願いします

三瓶:たくさん転職してきましたが、私もいまだに「働くって、なんだろう?」と悩みながら仕事をしています。でも、それが自分らしくてよいのだろうとも思っています。働くことや自立に対する価値観が大きく変わろうとしている今、より自由に自分らしい働き方が実現できる時代はすぐそばまで来ていると感じます。働くことに悩んでいるすべての人へ、大丈夫、なんとかなる!とメッセージを送りたいです。

「ブリュッケ」ホームページ(認定NPO法人フリースペース「たまりば」内)

https://www.tamariba.org/brucke/

 

三瓶三絵さんとの出会いの場:中原区100人カイギ

この記事のライター

現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。

関連する投稿


マルチな才能を発揮する「KOSUGI CURRY」の奥村佑子さん

マルチな才能を発揮する「KOSUGI CURRY」の奥村佑子さん

映像会社から転身し、一念発起して創作カレー屋を始めた奥村佑子さん。食と映像作品が融合したフードエンターテインメントを提供することが夢だとか。一方で「武蔵小杉カレーフェスティバル」を立ち上げて、大成功させています。また、2019年に食べログ「カレー百名店」に選ばれて以来、川崎市ランキングでは不動の1位に。そのマルチな才能についてお話を伺いました。


シェアキッチンや子ども食堂など多彩な活動を展開する「木月キッチン」

シェアキッチンや子ども食堂など多彩な活動を展開する「木月キッチン」

2011年の東日本大震災の衝撃で、「いつどうなるかわからない。後悔しない生き方をしよう!」と元住吉で飲食店「木月キッチン」を始めた時田正枝さん。股関節を怪我したきっかけでお店をシェアするというユニークな展開に。一方で、子ども食堂などを運営して地域の社会貢献活動にも積極的です。その多彩な活動についてお話を伺いました。


「能力の見える化」で障がい者雇用の促進に邁進するダンウェイの高橋陽子さん

「能力の見える化」で障がい者雇用の促進に邁進するダンウェイの高橋陽子さん

18歳以上の障がい者のうち、約6%しか週に20時間以上の雇用がなされていません。なぜかといえば、障がい者には仕事ができないという固定観念があるからです。そこで、障がい者の能力を見える化すれば、雇用は促進されると考えたそうです。どうすれば見える化できるのか、武蔵新城にあるダンウェイ株式会社の代表取締役社長・高橋陽子さんにお話を伺いました。


市民に開かれたラジオ局を目指す「かわさきFM」の大西絵満さん

市民に開かれたラジオ局を目指す「かわさきFM」の大西絵満さん

DeNAでは人事本部に配属されて経営者と同じ目線で組織を俯瞰するスキルを身に着けた大西絵満さん。かわさきFM(かわさき市民放送株式会社)に代表取締役として出向して、市民に開かれたラジオ局を目指し、次々と新たな番組作りに着手しています。どのような試みをしているのか、お話を伺いました。


ワーク・ライフ・ソーシャルを人生の3本柱に据える「イクボス」の川島高之さん

ワーク・ライフ・ソーシャルを人生の3本柱に据える「イクボス」の川島高之さん

川島高之さんは11年前、上場企業の社長や総合商社の管理職時代に心掛けていたことを「イクボス」の定義・10ヶ条としてまとめあげ、世に出しました。すると多くのメディアで取り上げられ、瞬く間に全国に広がりました。川島さんいわく、ワーク・ライフ・ソーシャルという3本柱の生活を送ることで、しなやかで豊かな人生になるそうです。<br> <br> また、本業の商業施設Classense(クラッセンス)武蔵小杉の運営でも地域に還元できるイベントを開催して地域貢献を増やしていくとのことです。そこで、いわゆる「ソーシャル」活動がいかに大事か、お話を伺いました。


最新の投稿


「交流保育」&「親子でランチ」で中原区の保育園を親子で体験!

「交流保育」&「親子でランチ」で中原区の保育園を親子で体験!

(2025年4月16日更新)中原区の公立保育園3園(中原保育園・下小田中保育園・中丸子保育園)では、親子で保育園生活を体験できる「交流保育(ランチなし)」や「親子でランチ」が開催されています。この記事では、「交流保育」の内容や参加方法などをご紹介します。


中原区の「子どもの発達支援セミナー」で悩みや不安を解消しよう!

中原区の「子どもの発達支援セミナー」で悩みや不安を解消しよう!

(2025年4月16日更新)中原区では、子どもの発達に関する悩みを抱える保護者の方に向けた「子どもの発達支援セミナー」を定期的に開催しています。この記事では、セミナーの内容や参加方法、令和6年度の開催日程についてご紹介します。


中原区のお子さま向けアレルギー相談を専門医が無料で実施!

中原区のお子さま向けアレルギー相談を専門医が無料で実施!

(2025年4月16日更新)中原区役所では、専門医による無料のアレルギー相談を実施しています。お子さまのアレルギーに関する不安を解消するため、専門医が相談に応じ、保健師・看護師・栄養士が生活の工夫についてアドバイスします。この記事では、アレルギー相談の実施期間や予約方法についてご紹介します。


川崎市青少年フェスティバル実行委員募集!イベントの企画・運営に挑戦しよう

川崎市青少年フェスティバル実行委員募集!イベントの企画・運営に挑戦しよう

(2025年4月15日更新)川崎市青少年フェスティバルは、青少年自身が企画・運営に主体的に関わることで、社会参加の促進や達成感、自己有用感を得られる機会を提供することを目的としています。この記事では、フェスティバルの概要と令和6年度の実行委員募集についてご紹介します。


マルチな才能を発揮する「KOSUGI CURRY」の奥村佑子さん

マルチな才能を発揮する「KOSUGI CURRY」の奥村佑子さん

映像会社から転身し、一念発起して創作カレー屋を始めた奥村佑子さん。食と映像作品が融合したフードエンターテインメントを提供することが夢だとか。一方で「武蔵小杉カレーフェスティバル」を立ち上げて、大成功させています。また、2019年に食べログ「カレー百名店」に選ばれて以来、川崎市ランキングでは不動の1位に。そのマルチな才能についてお話を伺いました。


広告募集ページ
区民ライター募集