薬物依存の経験を運営に生かす川崎ダルク支援会の岡﨑重人さん

薬物依存の経験を運営に生かす川崎ダルク支援会の岡﨑重人さん

武蔵新城に特定非営利活動法人 川崎ダルク支援会があります。この団体は、薬物依存症に陥った人たちが依存から回復していく上での支援を行っていますが、理事長の岡﨑重人さん自身、薬物依存の経験の持ち主です。どんな経験をしたのか、またその経験を生かして、川崎ダルク支援会でどんな支援をしているのか、お話を伺いました。


北海道で経済的にも精神的にも破綻する

―岡﨑さん自身、18歳の時に大麻に手を出したそうですが、きっかけは

岡﨑:僕の住んでいた東京都大田区では、中学生の時からクスリをやっている子がいたんです。高校生になれば、大麻や覚せい剤をやっている子たちも結構いました。僕の友達も大麻をやっていて、「ちょっとやってみようかな」ということになったのですが、毎日クスリをやっていたわけではありません。ほんの遊び心でした。

―大学を中退して北海道に大麻を求めて旅をしたそうですね

岡﨑:一浪して大学に進んだのですが、サークルにも入らなかったので、大学生活はとにかくつまらなかったですね。当時はクスリをやらないで遊ぶことがつまらなくなっていて、大学に行くこと自体、ばからしく感じ始めて中退してしまいました。

 

そんな時ある人が「北海道に行ったら、いくらでも大麻が生えているぞ」と教えてくれたのです。それで、「じゃぁ、北海道に行こう!」ということになったのです。

 

そこで北海道に行ったのですが、そんなに簡単には大麻は見つけられませんでしたがある時、大麻が繁茂している場所がわかったのです。早速出かけて行くと、あたり一面、大麻が生えていました。4人でクルマで行ったのですが、土のう袋15袋に大麻をつめて、札幌まで帰りました。

 

けれど当時、仕事もなければお金もなく経済的にどん底に陥り、どんどん追い込まれて幻聴などが聞こえるようになって精神的にも破綻してしまい、実家に帰らざるを得なくなりました。

 

さすがに、それからクスリを頻繁にやるようなことはなかったですが、この頃はとても自分自身辛い状況でした。家族が四六時中、僕を見張っていましたから。その当時、僕は知らなかったのですが、家族がダルクを知って、家族会に出ていたそうです。それで、とにかく家族と一緒にダルクに行くことになったのです。

北海道では野生の大麻が繁茂している地域がある

家族から二者択一を迫られて仕方なくダルクに戻る

―ダルクの対応はどうでしたか

岡﨑:その時は台東区の東上野にあるダルクの小さい相談室で、僕と兄と母とスタッフの人で話し合ったのですが、僕が「大麻はいいもんだ」ということを30分程度話したことを記憶しています。それに対してダルクの人はさえぎることもなく、否定もせず話を聞いてくれました。それからは、月に一回くらいダルクに顔を出していました。

―本格的にもうクスリはやめようと思ったときはないのですか

岡﨑:ダルクに繋がる前に、とてもイライラする出来事あったのですが、その帰りに多摩川駅で電車を乗り換えようとホームで待っていたら、僕の前に横入りしてきた人がいたのです。それにカッとなって、その人に僕のイライラしていた感情を全部ぶちまけ、とっくみあいになりかかりました。一緒だった父や駅員さんが割って入り、タクシーで帰りました。

 

家に帰ると両親と「これからどうする?」という話になって、「じゃぁ、もう入院するよ」と言ったのです。そこで翌日ダルクに行って精神病院に入院することを伝えたら、入院経験のある人を呼んでくれて、病院生活について話してもらったのですが、「病院よりダルクの方が全然いい」というのです。

 

そこで公衆電話で母に「ダルクに入ることにした」と言って、その日の夕方の飛行機で入所先の沖縄のダルクに向かいました。ただ、沖縄のダルクに行った時もほとぼりがさめれば、またうまく薬物を使えるだろうと思っていました。

川崎ダルク支援会デイケアセンターの相談室

―薬物と手を切ろうと思ったときはいつですか

岡﨑:沖縄のダルクは結局2カ月くらいで飛び出し、那覇の国際通りをぶらぶら歩いていた時に、スターバックスで置き引きをして、その時に入っていたお金で東京に帰ってきました。

 

羽田からダルクに立ち寄った後に実家に電話をして、「今から家に帰る」と言ったのですが、「いや、家には帰ってこないでくれ。品川で待ち合わせよう」と言われたんです。そして、品川で母と落ち合ったら「どうやって帰ってきたんだ」と訊かれたので、「実は、置き引きをした」と言うと、母がとても悲しそうな顔をして「もう、家には入れられない」と言うのです。

 

そして「一人で生きていくか、ダルクに戻るかどっちかにしなさい」と言われ、ダルクに戻ることにしました。その時もクスリをやめたいと思ったわけではなく、選択肢がそれしかなかったから、仕方なくダルクに戻ったのです。しかし、それをきっかけに、クスリをやめることができるようになりました。

自ら薬物をやめたいからダルクに来るという人はすごく稀

―ところでダルクに来る人というのはどういう人ですか

岡﨑:もちろん、薬物がやめられないで困っている人たちですが、自分自身でやめたいから来るという人はすごく稀ですね。当事者が来る場合というのは、逮捕されてしまって、来月裁判だから、裁判前にダルクに相談に来たという記録が欲しいという理由ですね。

 

また、生活保護を受けている人がケースワーカーに勧められて来るとか、刑務所で服役していた人が出所した後に、ダルクを帰住地にしたいと言われる人もいます。さらに、精神科病院に現在入院していて、退院した後に地域で通うことができる場所としてダルクを主治医やソーシャルワーカーから勧められた人などもいます。

 

そのような人たちも、当事者同士の生活の中で薬物への動機が変容していくことがあり、そのまま薬物をやめていく生き方を選んでいくケースが生まれてくるのが、ダルクの仕組みの一つだと思います。

―支援プログラムはどういったものですか

岡﨑:メンバー同士が一緒に暮らすというのがベースにあります。さらに1日、午前、午後、ミーティングなどのプログラムをやり、自助グループに通うというのが、創立当初からのプログラムです。ミーティングというのは、自助グループと同様で、12ステップという原理のプログラムを基に自分の過去の話、経験の話をそれぞれテーマに沿ってするものです。

川崎ダルク支援会デイケアセンターの回復プログラム

―支援で特に大切している点は何ですか

岡﨑:新しく来た人を大切にします。それは、薬物を使わない生き方を誰かに提供することで、自分も薬物を使わないで暮らすことができるという考えです。新しくやめたいと思う人がきてくれることで、今やめている人たちも、やめることを継続的に実践できるわけです。

 

あとは失敗を見守ること。自分の人生の失敗も糧にして生きていく姿をお互い見守ってもらっています。薬をやめても良い人を目指しているわけではなく、人生を生きられるようになるのが大切だと思っています。

―岡﨑さんの経験をどう生かされていますか

岡﨑:最初の頃とはだいぶ変わってきたと思います。自分が当事者としてメンバーの人と接することができることはすごく大きな部分ではあります。とはいえ、最初は、自分がやってきた道のりが回復のすべてだと思っていました。

 

ダルクに入って、ミーティングに出て、自助グループに通い、12ステップという原理のプログラムをやっていくのが回復への道だと思っていたのです。だから、「なんでそれができないの?」と思ってメンバーの人に言っていた時期もありました。

 

しかし、ダルクの共同生活や一体性みたいなものが合わない人もいるわけです。みんなで一緒に同じようなことをやりながら、日常生活を過ごしていく感じなので、あまり個人の選択の余地は少ないと思います。自分としては、もう少し個別的な対応ができればいいなとは思っていますが…。

川崎ダルク支援会デイケアセンターのミーティングルーム

根強い偏見にはばまれて社会復帰が難しいのが現実

―やはり薬物依存に対する偏見は強いのでしょうか

岡﨑:特に日本では薬物依存症に対する社会的偏見は強いんじゃないでしょうか。僕ら自身そう思ってしまい、本当に地域に入っていっていいのかなと思う気持ちや恐れもあります。日本では薬物使用自体が処罰の対象ですし、そういった教育を日本人は受けています。

 

薬物=厳罰ということは、薬物依存から回復を目指している人に対してもスティグマ(否定的な見方)が存在しています。現にこの法人の事業所を契約するときもすごく大変で、理解ある方に助けられて今の運営が支えられています。

―そうなると、薬物依存の人の社会復帰というのは難しいのでしょうか

岡﨑:簡単ではないですね。「ダルクを卒業して、アルバイトの面接に来ました」と言えば、「やばい奴が来たな。ちょっと雇いたくないな」という人が大半だと思います。だから、ダルクに通っていたことをオープンして面接に受けることが難しいのが現実です。

 

また、薬物依存症に統合失調症や発達障害など他の障害が併存する人も増えてきていて、そうなると一般的な就労というよりは、福祉的な作業所に通う人も多いですね。

―今後の抱負を教えてください

岡﨑:個人的な抱負としては、現在でも僕が直接的にメンバーの人を支援することは少ないのですが、もう少し離れた距離からでも、みんなが成長していける仕組みができたらいいなと思っています。

 

ダルクとしては、今現在、入所できる人は13名のスペースがありますが、もう少し多くてもいいかなと思っています。15人から20人未満の間ですね。また、僕もダルクで社会復帰させてもらったので、ダルクで働くというもの、ひとつの社会復帰だと思っています。そういう人も育てられればいいなと思っています。

―読者へのメッセージをお願いします

岡﨑:薬物依存に対して「だめ、絶対!」教育だけではダメ絶対です。それはなぜかと言うと、差別や偏見を助長することによって、将来、依存で困った人たちの相談先などを減らしてしまうことにもつながってしまうからです。

 

また、「今日だけ」というのが、自助グループのスローガンなのですが、一日一日の積み重ねが、自分自身の未来にもつながります。未来や過去のことばかり見ていずに、今、目の前のことに向き合うことが大事だと思っています。

特定非営利活動法人 川崎ダルク支援会ホームページ:https://darc-kawasaki.org/

岡﨑重人さんとの出会いの場:中原区100人カイギ

この記事のライター

現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。

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