■「まちの専門家グループ」で法律的ワンストップサービスを提供
―相続・終活カフェでは専門家の方々が色々な相談に乗ってくれるそうですね
山本:私たちは「まちの専門家グループ」という専門家のネットワークで、弁護士や税理士、司法書士やファイナンシャルプランナーなど横のつながりで展開しています。このネットワークの事務局として、私が所属する株式会社ラックコンサルタントがあります。
どういう活動をしているかといえば、1次受けとしてお客様からの色々な問い合わせ、ご相談をまずは受けて、内容を聞いた上で、この相談であれば、この先生に任せようとか、複数分野にまたがるケースであれば、「この先生とこの先生にお任せしよう」など、チームを編成し、ラックコンサルタントはそのまとめ役を担います。
―まちの専門家のネットワークをつくったメリットは何ですか
山本:一言でいえば、「法律的ワンストップサービス」と呼んでいます。たとえば、相続でもめ事が起きた場合、どうするかといえば、やはり弁護士です。相続税の問題が発生した場合は、税理士です。不動産登記の手続きならば、司法書士です。もちろん、問題が複数にまたがるケースが多々あります。
そういった時に、お客様がいきなり複数の専門家にそれぞれ連絡をとって、直接会おうとすることに、ためらってしまう方が多いようです。そのような時に、まずは、事務局の窓口に来ていただいて、私たちはご相談の内容をよく把握し、適切な専門家をこちらで采配をします。お客様にとってそれがメリットとなります。
まちの専門家グループが様々な相談事に乗ってくれる
―たとえば税理士さんのサポートではどんなことがありますか
山本:相続税の手続きや相続税のシミュレーションがあります。平成27年に税法が改正されて、それまでの非課税枠(基礎控除)の5千万円が3千万円に減り、ひとり1千万円の控除が600万円に減ってしまいました。ですから、例えば相続人が3人いると、非課税枠が4800万円に減ってしまいます。そうなると、財産総額が4800万円を超える人は意外と多いのです。よって、相続税の相談が非常に増えました。
そこで、このまま自分が亡くなった場合、もしくは親が亡くなった場合、相続税がかかるのか、かからないのか、税理士さんにきっちりと計算をしてもらいます。それが相続税シミュレーションです。
何をやるかと言えば、まず土地・建物の評価をします。相続税の場合の土地の評価は路線価を使いますが、非常に難しい面があります。金融資産に関しては、単純に足していけばいいのです。それで、相続税がかかるかどうかを計算してもらいます。
遺産分割のもめごとは弁護士に相談!
―弁護士の役割にはどういったものがあるのでしょうか
山本:相続に関するもめごとは、やはり非常に増えております。やはり遺産分割における各相続人の主張や考え方がどうしてもぶつかりあってしまうケースは多いです。できる限り、相続人同士の言い分を聞き、互いに歩み寄りができないか、探る努力をしますが、どうしても無理な場合は家裁への調停申し立てや審判という形になっていきます。
弁護士にはこのような揉め事に至った経緯から丁寧に聞いていただき、相談者がどのようにしたいのか、また内容により、どのようになるのか、アドバイスとしてご相談者にお伝えいたします。
それと、最近は遺言書を作る方が非常に増えておりますが、遺言書で注意すべきはやはり、遺留分でしょうか。作成の段階から遺留分のことを考えて作れば良いのですが、そうでない場合、やはり問題が起こることがあります。
「遺留分を請求された」、または「請求したい」というような場合もやはり弁護士に相談をしなければなりません。(※遺留分とは被相続人がその法定相続分の半分を最低限貰うことができる権利)
相続では様々な問題が発生する
■「家族信託」という生前から家族に財産管理を任せる制度も普及
―逆に遺産放棄というケースもありますね
山本:遺産放棄には2種類あって、いわゆる借金がある場合、お父さんが多くの借金をしていて、到底返せない負債を残したまま亡くなった場合、相続が発生した瞬間に、家庭裁判所に遺産放棄を申し立てます。そうすると自分は相続人ではなくなります。ですから、債務からは免除されます。
もう一つは、遺産分割協議書において、「自分は財産をもらわない、他の人が相続する」という内容にサインをすれば、それも放棄したことと同じになります。
―司法書士はどんな役割をしますか
山本:相続登記が主な仕事で、まとまった遺産分割の内容に沿って不動産の登記の手続きをします。遺言がなければ、相続人全員で話し合って、だれが不動産を相続するのかを遺産分割協議書に記して、それに基づいて登記申請をします。
―家族信託というものもありますね
山本:これは自分が生きている間の財産管理に関する制度です。自分が衰えて、財産管理ができなくなる前に、誰かに財産を託すことのできる制度です。他人とか友達に預けるわけにはいかないので、家族である子どもに託します。
きちっと家族の間で契約をして、それを公正証書にします。それによって、託された子どもは親のために財産を管理しなければなりません。預かったからといって自分のものにはなりません。たとえば、金銭信託というのがありますが、一定の額のおカネを子ども(受託者という)の口座に移します。はたから見れば贈与ですが、契約に基づく信託なので、贈与にはなりません。
不動産のケースでは、お父さん名義の土地・建物をお子さん名義に移転します。仮に親御さんが病で臥せってしまったりしても、受託者であるお子さんは、自分の判断で不動産を活用したり売却することもできます。その利益を、親の治療費や老人ホームへの入居費に充てることが可能になります。
落ち着いた雰囲気の相続・終活カフェ「しんまるcoffee」
■お客さんが一番やりたいことを優先してプランを立てる
―成年後見とはどういうものですか
山本:成年後見人の役割というのは、財産保全としてのいわゆる金庫番です。後見制度は意思能力がなくなってしまった方のための制度で、家庭裁判所が介在します。だれを後見人にするかを選ぶのは裁判所です。また、任意後見というものもあり、自分の意思能力が危うくなった時のために、後見人をあらかじめ決めておくこともできます。
―ファイナンシャルプランナーの役割を教えてください
山本:業務内容は非常に幅広いのですが、私の場合は、まずは遺産整理や生前対策ですね。冒頭でもお話しましたが、ネットワークの中心になって専門家を手配する役割を担っています。
また、終活サポートとして、お客さんからご相談を受けたときに整理をして、プランを立てて、そのプランに伴走します。お客さんが一番やりたいことを優先的にして、一番希望している形にもっていくには、どうしたらいいのかということを考えます。
―今後の展開はどう展開しますか
山本:まずは地元・新丸子には「しんまるcoffeeがある」と言ってもらえるようになりたいです。相続や終活の相談が気楽にできる場所があると、誰もがわかってくれるようになってほしいです。
そのためには、できる限り地域貢献をして、色々な催しにもたくさん参加して、街を盛り上げる活動に協力したいと思っています。その上で、地元の人から信頼されて、みなさんが満足していただけるような結果を出せるように努力していきたいです。
―読者へのメッセージをお願いします
山本:カフェを開業した当初の2カ月間はなかなか誰も来ませんでした。相続・終活カフェという肩書をつけたものですから、「相談事がないと来てはいけないところ」と思われてしまったようです。相談事がなくても喫茶店として憩いの場にしていただきたい。そのついでに相談があったときには、声をかけてほしいと思っています。皆さん、ご来店をお待ちしております!
現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。