お父さん同士のつながりで地域を豊かにする「川崎パパ塾」

お父さん同士のつながりで地域を豊かにする「川崎パパ塾」

パパとして自分を育てる学びの場が「川崎パパ塾」。「市民講師」として、お父さん同士が講師になって自らの経験を話すことで、切磋琢磨しているそうです。14年の長きにわたって活動してきましたが、無理に後継者を育てようとはしていないとか。代表の市川毅さんにお話を伺いました。


4つの「イクジ」を学ぶ場に

―2008年に行政主導でのパパ塾が始まりましたね

市川:当初のパパ塾は中原市民館主催でした。NPO法人ファザーリングジャパンの方や地元のPTA会長の方など地元で活躍しているお父さんが、講師として招かれて講座を開いていました。2009年に、市民館の嘱託職員の女性が「ぜひ、このパパ塾をお父さん主催でやってもらえないか」ということで、2010年から市民館と市民の共同事業として、再出発することになりました。

―川崎パパ塾が目指していることは何ですか

市川:川崎パパ塾のビジョンとしては、お父さんにもっと地域へ顔を出してもらい、口も出してもらえば、地域の子育て社会も変わるし、地域が豊かになることを目指しています。

―4つの「イクジ」を学ぶことを掲げられていますね

市川:まずは「育児」ですね。これはストレートに子育てに関して学ぶものです。「育自」とは、ワークライフバランスとか、残業に追われる働き方への反省など、子育てをする上での自分を育てることを学ぶことです。パパ塾がやっていることは、基本的にはこの「自分育て」ですね。

 

「育地」(地域育て)とは、地域の子どもと分けへだてなく遊ぶことで、地域が豊かになるということです。最後に「育次」(次世代育て)では、新しいパパたちに自分たちの経験を教えることでパパとして育てることです。

お父さん同士の「市民講師」に切り替えたわけ

―川崎パパ塾での当初の講座では、どんなテーマを取り上げましたか

市川:お父さんのための絵本の選び方や夫婦のパートナーシップなどですね。しかし、あまり机に座って話を聞いてばかりでは面白くないので、子どもたちを連れだして、夢見ヶ崎動物公園のバックヤードの見学とか、消防署の見学など、子どものためのイベントも企画しました。

「市民講師」の話を熱心に聞くパパたち

―お父さんによる「市民講師」ではどんなテーマが取り上げられましたか

市川:まず、なんで「市民講師」の道に進んだかといえば、助成金が2014年ごろに切れてしまい、そのおカネがないと講師料をお支払いできないので、講師を呼べなくなったからです。しかし、考えてみれば、普通のお父さんでも子育ての経験をいっぱい積んでいるのだから、その経験を話せばいいんじゃないかということになりました。

そこで、ある方は絵本選び、私は本業がカメラマンなので家族写真の撮り方、また、バーベキューが得意なお父さんには、その仕方を教えてもらい、一緒にバーベキュー大会を開くなど、みなさん、それなりに話すことがあるよねということになりました。ですから、我々自身が登壇できるのではないか、ということになりました。

年齢差を越えてお父さん同士がフラットに会話ができる

―この14年でパパたちが変わったなと思うことはありますか

市川:一番最初の頃にパパ塾に申し込んできた方々は、全員、パパではなくて奥さんでした。つまり、奥さんに尻を叩かれてパパ塾を受講したわけです。ですから、パパ塾の案内も奥さん宛てだったりします。しかし、最近の傾向を見ると、パパ自身が自分で探してきて参加する人が確実に増えています。自分でちゃんと問題意識を持っていますね。

 

ただ、パパ塾に来ている人と来ない人では両極端に分かれてしまっている気がします。子育てに全く関心がないというか、私たちの目には触れないような人たちが一方で増えてきているようです。児童虐待などが年々増えているのは、そういうことの反映ではないでしょうか。

―コロナ禍でパパたちの生き方はどう変わりましたか

市川:ある管理職のお父さんの話が印象に残っています。その方の会社では、コロナ禍で週1日出てきて、週4日は在宅という勤務体制にしていたのですが、部下に週3日程度出社してもらえないかと言ったところ、「なんで3日、出勤しなければいけないんですか?」と言い返されたとこぼしていました。

 

すると、横にいた若いお父さんが「それはそうですよ。もう時代は変わったんです。これからの時代は、1日だけの出勤でも仕事が差しさわりなくできる時代です。だから、何で出勤しなければいけないのか、ちゃんと説得できる上司にならなければいけない」と諭したんです。そういう話をお父さん同士が年齢差を越えてフラットに会話できるのが印象的でした。

―子どもとの付き合い方で変わったと感じたことはありますか

市川:色々なパターンがあると思います。テレワークが可能な人は在宅勤務になって、家族とのコミュニケーションをとる時間が増え、以前とは違って、子どもと考えもしないようなことができる人がいるようです。

地域の子どもたちと分けへだてなく遊ぶ

無理に後継者を育てなくてもいい

―14年間、川崎パパ塾が継続している秘訣は

市川:基本的にパパが主催する助成⾦事業というのは、なかなか続きません。助成金が切れると解散するケースが多いですね。我々も当初、後継者という問題があったのですが、同じ地域で同様の活動をしていた先輩グループに話を聞いたところ、「跡を継ぎたいという人が現れたら止めませんが、我々は我々の世代で終わっても構わない」と話されました。

 

それまでは、次世代のパパを後継者として育てようと思っていましたが、すでにあるグループにひとりで飛び込んでくるのは、ちょっと居心地が悪いかもしれません。

 

ですから、次世代のお父さんたちは新しいパパ塾をつくっていけばいいのではないかと。それがたとえ2年で終わったとしてもいいのではないでしょうか。2年間だけの付き合いでも地域につながりができますから。

 

長続きの秘訣といえば、私がやめなかったから…でしょうね。それでは、何でいままで続けてきたのかといえば、ひとつの仕事だけをやるのではなく、2つ、あるいは3つの仕事をこなすこと…本業の仕事だけでなく、色々な活動を同時にやることが、自分にとってもプラスになっていると感じるからです。実際、この活動があったので、脱サラにつながったとも言えます。

 

若いお父さんと話す機会が多いので、そこで、「とにかく会社がいやでいやで」とこぼしていたら、若いお父さんが「辞めちゃえばいいじゃないですか」と背中を押してくれて、会社を辞めることができました。川崎パパ塾は、そういう新しい価値観に出会える貴重な場でもあるので続けているんです。

―どうしたら「パパ塾」を立ち上げられますか

市川:行政の後押しがあればかなり楽に立ち上げられます。お母さんのグループはたくさんありますが、お父さんのグループはまだまだ少ないので、行政にとって、パパ塾は注目度もニーズも高いのです。立ち上げるにはやはりおカネが必要なので、行政が助成金を出してくれれば、その点、楽になります。ですから、まずは、地域の行政に問い合わせることをお勧めします。

 

また、立ち上げるにあたっては5人程度の仲間を見つけましょう。助成金や共同事業を申請する場合、たいてい5人の運営メンバーが必要になってくるケースが多いです。最初は人数合わせでもいいのですが、パートナーとしてコアに助けてくれる存在が一人はいるといいですね。

 

あとは自主自立した活動に移行することも大事です。川崎パパ塾では、市民講師に切り替えたことで、講師料が不要となったので、自主自立した活動が可能になりました。

―今後はどう展開していきますか

市川:私の目標は、今年の10月までにリアル会場とオンラインのハイブリッドで、100人の参加者を集めることを目指します!

―読者へのメッセージをお願いします

市川:お父さんのネットワークができることで、地域社会は豊かになるので、今後もこの活動を続けていきたいと思っています。また新たに生まれてくるパパ塾にとって参考になれば。ですから、もう少し、皆さんに関心を持っていただけるパワーあふれる団体にしたいと思っています。

川崎パパ塾ホームページ:https://papamama2010.com/

この記事のライター

現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。

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