■産後ケアの利用料をもっと下げて周知すべき
―産後ケア事業の充実を訴えていらっしゃいますが、問題点、あるいは課題はありますか
井土:この制度を知ったのが、妻の2人目の妊娠・出産のタイミングでした。その際に、出産から退院までの予定が3日間だといわれました。身体が完全に休みきっていない状態で家に戻ってくれば、まだ起き上がるのも難しく、2歳の長男の世話や子どもの授乳もあったりして大変です。もっと退院を延ばしてあげたかったのです。
中原区は、私同様、地方から移住してくる人が多く、頼れる人が周囲にいないという状況があります。ですから川崎市の産後ケア制度を利用しようと思ったのですが、宿泊だと1日で7500円です。1泊2日だと2日間ですから、15000円になります。1泊2日で、横浜市は6000円、相模原市は10000円なので、川崎市は割高です。
また、産後ケアには虐待防止の効果もあるといわれています。川崎市でも2022年度の0歳児における市内児童虐待相談・通告件数が588件もありました。虐待件数がなかなか減らない中で、この産後ケアを利用することで虐待防止に効果があるのならば、もっと積極的に充実していくべきだと考えています。
―では、産後ケアの利用料金をどのくらいまで下げればいいとお考えですか
井土:宿泊であれば、1日の利用料を3,000円、1泊2日で6000円まで下げてほしいと思います。また住民税非課税世帯には、さらなる補助も必要だと思います。
出産すれば、おむつ代やミルク代など新たな負担が増えます。ですから、子育てが始まる一番初期の段階でなるべく費用を下げる必要があります。また、利用できる日数ももっと増やしてもらいたい。
子育て世代だからこそ妊産婦問題に取り組む
■妊産婦医療費助成制度の導入が必要
―妊産婦医療費助成制度の導入も訴えていますね
井土:政令市でいえば新潟市がこの制度を導入しています。新潟市は4月からは所得制限を撤廃しました。妊娠してから出産までは、ひとそれぞれ状況が違います。切迫早産やつわり、高血圧や歯の治療など、個々人の様々なケースがあります。そういった多様なニーズに対応する制度が必要です。
また、早期に産休に入れば、収入が減っていき、逆に医療費がかさんでいきますから、この医療費の負担を軽減させなければならないと思います。
出産までの経済的負担感を減らしていかないと、第2子、第3子を出産することにはためらいが生じます。そうなれば、少子化をくいとめることなど到底できません。
―3割負担を1割負担にするといったことでしょうか。あるいは後から払い戻しでしょうか
井土:理想としてはやはり全額無償です。ただ、人口減少社会における持続可能な制度という点では、住民の一部負担はやむを得ないとは考えています。
―この制度について議会で川崎市に質問をされていますが、行政からの反応は
井土:こども未来局長から、「妊産婦の医療費にかかる公的な助成については受診状況の現状把握や助成による効果の分析等が必要であることから、今後、関係医療機関と協議を行うとともに国と動向や他都市の取り組み状況を参考にしながら、調査・研究をする」との回答を得ました。
初めて議会の議題の俎上にこの制度を載せたことは小さいけれど、貴重な一歩だと思っています。医療費への公的な助成ですから、受診状況(レセプト)で、どれくらい費用がかかるのかを想定することが必要です。ただ、出生率なのか出生数なのか、何を指標としてゴールにするのかを決めるのは、難しいとは思います。
■学校に行かなくても学べる場を提供
―誰でも学べる場の実現を訴えていますね
井土:10代の死亡原因のトップは自殺です。引きこもりになったり、いじめであったりといったことで、学校に行けなくなってしまう。そのため、教育を受けられなくなってしまえば、さらに負い目を感じてしまいます。
そうしたときに、これだけインターネットが普及してきていることを考えれば、テクノロジーを活用して学びを得ていく、最終的に学校に行かなくても色々な学びができて、次のステージに進んだ時も遅れずに堂々と生きていける環境を作ることが重要です。
子を持つ一人の親として、子どもの自殺は悔しい。出産後、すぐに子供を遺棄してしまうという事件もありますが、政治として、行政として、それらを未然に防ぐ手立てがなかったのかと考えたときに、産後ケアであったり、教育機会の提供で居場所を創っていくというのは政治や行政ができることだろうと思います。
そこで重要なのは、住民が欲しいときに欲しい情報を渡せることです。産後ケアの話でいえば、妊娠届を出したときに母子手帳や産後ケアの情報を載せた冊子を渡したりしますが、出産までには何カ月もあります。
妊娠初期に産後ケアの情報が必要かどうかと言えば、どちらかと言えば必要ではない。だからこそ産後ケアの情報をどのタイミングで提供するのがベストなのかを調査すべきだと思います。そこを強化していかないと産後ケア事業も周知されず、利用者も増えません。
情報を自分で取りに行くというのが今の社会ですが、行政サービスとしてこれだけのことを充実させているという情報を、住民にどうやって、どのタイミングで提供できるかが課題です。
「ねんりんピック」(全国健康福祉祭)で高齢者も活躍
■スポーツは地域コミュニティ構築の一つの道
―一方で、趣味などに生きがいを持つことができる地域コミュニティをどう構築しますか
井土:私自身、ずっと水泳をやっていて、スポーツというのは、みんなを一つにすると思っています。別に自分がスポーツをやらなくても、応援するだけでも心が一つになりますし、生きがいにもなります。ですから地域コミュニティを構築し、孤立社会をつくらない一つの道としてスポーツがあるのではないかと思っています。
逆に、これからの課題は、情報があふれている中で、たとえばスポーツをやったり、趣味のサークルに入ったり、ボランティアに参加したり、人々が色々な場に拡散して、ある意味でバラバラになることで、近隣住民同士のコミュニケーションが弱くなってきていることかなと思います。
―スポーツを通じた街の活性化を提唱していますね
井土:私は川崎港東扇島でのトライアスロン大会に出場したのですが、この大会があまり知られていません。川崎市はこの10年で、音楽の街、スポーツの街というふうに変わってきましたが、どうしても京浜工業地帯というイメージが根強くあります。
しかし、川崎の海だって泳げるというのは、イメージを変えるのにはいいのではないかと思っています。また、子どもたちに夢や希望を与える力としても、スポーツは大事だと思っています。
川崎港東扇島のトライアスロン大会に参加
■不透明な時代だからこそ「持続可能な街」を実現する
―地元・中原区をどういう街にしたいですか
井土:持続可能な街にしたいです。これからの社会を考えていくと、目まぐるしく変化している中で、人口減少社会が進んでいます。
先日、あるところでお話をさせていただいたときに、自分が10年、15年、20年、先を考えたときに、幸せな未来を確信している方はいらっしゃいますかと問いかけたら、誰もいらっしゃらなかった。
そういう状況だからこそ、持続可能な街づくりをしっかりとつくっていきたい。この街にいれば、しっかりとした行政サービスを受けられるのだという安心感、あるいは財政的な安定を実現できるといったことを、中原区という街で体現していきたいと思っています。
―読者にメッセージをお願いします
井土:中原区を、ひいては川崎市を「産み育てたい街」として実現してきたいと思っています。日本という国の中で一番の財産は人です。人づくりをどうやっていくのか。それが必ず高齢者のためにもなっていきます。
若い人たちは税金を納めていく立場になっていきますし、若い世代が増えれば、その税金が高齢者の大きな支えになります。そういった好循環をつくっていくことが最重要だと思っています。
井土清貴 公式サイト:https://ido-kiyotaka.com/
現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。