中原区の市民活動の「生き字引」竹井斎さん

中原区の市民活動の「生き字引」竹井斎さん

1980年代後半から市民活動を始められた竹井斎(67)さん。きっかけは、「尾瀬の自然を守る会」との出会いだったそうです。ユニークなのは、環境保全の活動と並行して、中原区のまちづくりにも参画していること。

さらに、まちづくりの延長線として、地域教育会議や子ども会議といった社会教育にも関わっていることです。いわば、この30年以上にわたる市民活動は、環境とまちづくり、そして社会教育の3つの柱で展開されている点です。

竹井さんにこれまでの市民活動を振りかえっていただくとともに、自宅をコミュニティスペース「おおきな木」として開放され、どう活動されているのかをお伺いしました。


市民活動の原点は「尾瀬」と「区づくり白書」

―どういうきっかけで市民活動を始められましたか

竹井30歳過ぎでしょうか。1980年代後半から、市民活動に興味を持ち始めました。会社に入ってから、職場の仲間に山登りに誘われました。北海道生まれなので、やはり自然が恋しくなったんですね。その頃、川崎市教育文化会館で「自然考」という市民講座を受講し、その際に「尾瀬の自然を守る会」との出会いがありました。そこで、1990年前後から尾瀬の環境保全のボランティアに参加することにしました。

また、ほぼ同時期に和光大学が市民を対象とした「川崎学」という市民講座を開いていて、これからも川崎市に住むのであれば、川崎市のことを勉強しようかなと思い立ち、受講しました。この川崎学は、その後、かわさき市民アカデミーでも始まり、その講座も受講しました。

川崎学を受講していたら、ある講師の先生から「土・日の週末は市民活動のゴールデンタイム。教室で勉強している場合じゃない」とはっぱをかけられました。

ちょうどそのころ、川崎市の各区で「区づくり白書」策定のために、この白書の委員を募集していたので、中原区の委員として参加しました。それが、1995年頃ですね。そこから、中原区のまちづくりへ関わることになり、その延長線で、地域教育会議や子ども会議といった社会教育にも参加し、現在に至っています。

ちなみに、この白書をベースに2000年頃に、「中原区まちづくり推進委員会」が立ち上がり、やはり委員になりました。その頃は、駅前の自転車問題がクローズアップされていた時期で、その問題をどう解決するか、また、南武線沿線道路の景観をどう改善するか、あるいは武蔵小杉一帯の緑化をどう進めるかなど、複数の検討委員会も立ち上がり始めました。

子どもも参加する井田山の里山活動

地元・川崎の環境保全に取り組む

―尾瀬の環境保全から地元・川崎の環境保全に目を向けられたそうですね

竹井:そうですね。1990年代初頭に「かわさき自然調査団」の身近な自然調査に参加しました。市民が主体となって川崎市内の自然を調べましょうという活動です。その後、この活動の延長線上で「生田緑地構想検討委員会」にも参加しました。

また、2000年前後に「市民健康の森」という、川崎市内の各区にひとつ「市民の森」を決めて、その後の運営・管理も市民でするというプロジェクトにも参加しました。

中原区は井田山が「市民健康の森」になり、その運営・管理に携わることになり、里山活動が始まりました。私も、井田山で枝打ちや草刈りをしたり、あるいは自然観察会やキャンプをしたりといった、子どもが参加できるイベントを開催しました。

「アクト川崎」を設立し川崎市の地球温暖化対策に参画

―2006年にはNPO法人アクト川崎を設立されますね

竹井2000年に川崎市地球環境保全行動計画推進会議が立ち上がり、そこに市民部会、行政部会、事業者部会、学校部会などができて、それぞれ活動しながら連携する試みができ、参加しました。数年後に、この推進会議が「かわさき地球温暖化対策推進協議会」に衣替えし、その中の市民部会にも参加しました。

NPO法人アクト川崎(以下、アクト川崎)は、かわさき地球温暖化対策推進協議会において市民が事務局を担うための法人として市民部会のみんなで立ち上げました。また、法人化すれば、助成金などの申請もできるという現実的な側面もありました。その流れの中で、アクト川崎の理事長に就任しました。

その後設立された川崎市地球温暖化防止活動推進センターに、2010年アクト川崎が指定され、運営を受託したのですが、その時、私は、センター長に就任したので、さすがにサラリーマンとの二足のわらじは無理だと、会社は早期退職しました。

哲学的対話が楽しい「おうち哲カフェ」

自宅をコミュニティスペース「おおきな木」として開放

―現在も哲学カフェや中原区ソーシャルデザインセンターなど色々なコミュニティに関わられていますね。

竹井:中原区ソーシャルデザインセンターは中原区のまちづくりに関わってきた延長線上にあります。また、哲学カフェも109日に「カワテツ大集合」で川崎市内の哲学カフェの参加者が一堂に会し、テーマを気候変動にして対話をするなど、やはりこれまでの活動の延長線上で、自分の中ではつながっています。

 

2021年、自宅をコミュニティスペースとして「おおきな木」を作られましたね

 

竹井:自宅をリフォームする際に、夫婦で相談し、思い切ってコミュニティスペースにしました。お互い、ひとりだけではできなかったと思います。

子育てサロン「にじのひろば」

―「おおきな木」の活動はどのようなものですか

竹井:中原区の哲学カフェ「ナカテツ」として「おうち哲カフェ」を開催しています。また、「おうち寺子屋」として小中学生を対象に開放もしています。以前から、「地域の寺子屋事業」(川崎市教育委員会)として、「寺子屋井田中」を受託していたので、もう一つの学びの場を設けた感じです。

 

私と配偶者の蔵書も「おうちとしょかん」として「おおきな木」で閲覧してもらっています。さらに保育ボランティアグループ「にじの会」主催の子育てサロン「にじのひろば」としても利用してもらっています。

 

―今後、どう活動を展開されますか

 

竹井:私も60歳代後半になり、この先、なかなか動けなくなるだろうから、この「おおきな木」に皆さんが来てくれると嬉しいですね。もうひとつは、私がやってきたような市民活動を、どうやって若い人に引き継ぐかが課題です。

 

―コミュニティ活動に興味をもつ読者にメッセージをお願いします

 

竹井:だまされたと思って、コミュニティ活動に参加してみたらどうでしょう。仲間ができるのは楽しいですよ。ひとりで生きていく、面倒なことはしたくないという方もいるでしょうが、やはり、一人では生きていけないということを、今一度、真剣に考えてみてはいかがでしょうか。

 

色々な人たちと出会い触れ合うことで、良いことも悪いこともあるとは思いますが、それが面白いと思える人生にした方がいいのではないかと思います。一番の幸せは、そんな出会った人、身近な人と一緒に楽しい時間を持てることではないでしょうか。

【おおきな木】
開館時間:金曜、10 時~12 時、15 時~18 時
場所:中原区井田杉山町 24-8
問い合わせ:おおきな木(竹井)
☎044-766-7021
Facebook:https://www.facebook.com/Noguchi.Takei

この記事のライター

現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。

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