10年目に突入した「こすぎの大学」

10年目に突入した「こすぎの大学」

「こすぎの大学」は、毎月第2金曜日の午後19時28分から21時15分まで、中原区役所の会議室で開催します。前半でゲストを招いてプレゼンテーションをしてもらい、後半は、そのプレゼンに紐付けたワークショップを行います。そして、最後は、近くの居酒屋「焼辰」さんでの懇親会で大いに盛り上がります。

主宰者の岡本克彦さんにお話を伺いました。


創設当時からの運営メンバーと「こすぎナイトキャンパス読書会」で出会う

―最初から3部構成で始めたのですか

岡本:そもそも、僕と運営メンバーとなった柳橋歩さんの勤務先が同じNECで、社内で「ムサコ大学」というコミュニティを運営していました。会社の中で部署間の連携ができていないなどが課題でした。

その時のテンプレートが、最初に話題提供があって、それについてファシリテーターを設けないで対話をするワールドカフェ形式で話し合い、そのまま懇親会に行くという形で、「こすぎの大学」では、それをそのまま踏襲しています。

―ところで創設当時から現在に至る運営メンバーとの出会いは

岡本:「ムサコ大学」を2年間ほどやっていて、40歳ぐらいの時、いろんな人とコラボレーションをする楽しさを感じていましたが、社内外では色々な活動をしているけれど、自分の町のことを知らないし、友達も知り合いもいないと思い、すごく寂しい気持ちになりました。そこで、町とつながりたくて、地元のコミュニティを探したんです。

そうしたら、「こすぎナイトキャンパス読書会」というのを見つけました。そこは仮に読んでいなくても、課題図書を持っていけば、その場に参加できるというものです。興味のない本であれば、参加しなくてもいい…参加、不参加を自分で選べる緩いコミュニティだなと思い、参加したのですが、この読書会の主宰者が「こすぎの大学」の運営メンバーになった保崎晃一さんでした。

この読書会の参加者が後に運営メンバーになった大坂亮志さんや、国谷澄子さんや鈴木眞智子さんです。そこで大坂さんや保崎さんと話し合って、緩いコミュニティとして「こすぎの大学」を始めました。


―「こすぎの大学」を始めるにあたって、どういう形でやろうということは固まっていたんですか


岡本:読書会が終わった後の懇親会で、僕が「社内で、『ムサコ大学』をしているんですが、今度、活動の場を社外に広げたいんです」と言ったら、保崎さんたちも読書会以外のテーマでコミュニティ活動をしたいということで、お互いの想いが合致して、ソーシャル系大学を立ち上げようということになりました。

ソーシャル系大学とは、行政による市民講座や民間等によるカルチャースクールとは異なり、ある特定の地域に関する「学びの場」を創り出し、そこに「人が集い、交流する」ことを通じて、地域の活性化に結び付けられる場です。

ゲストも多士済々です

自分たちが楽しいことが前提だから苦労はなかった

―始めるにあたっての苦労はありましたか

岡本:苦労はないですね。基本的に自分たちが楽しいということが前提で、集客しようとか、町のために何かをしようではないんです。だから、苦労というのはなくて、その心地よさが今でもあって、それをグランドルールにしています。

―とはいえプレッシャーでご自身がピリピリした時期があったそうですね

岡本:参加者が増えて「運営をしっかりやっていかなくては」と思っていた時期が「こすぎの大学」を始めて、2~3年目にありました。コミュニティ活動を自分が好きだから始めたのに、会社の論理を入れようとしてしまいました。僕ら運営メンバーで役割を決めて、きっちりやろうとしたのですが、その時期が、一番、自分が周囲に嫌な空気を出した時期だと思います。

―それは自然と解消できたのですか

岡本:会社のやり方が悪いわけではないですが、これからの新しい仕組みとは何かを考えたとき、自分たちの原点である、できる範囲しかやらないという原点に立ち戻りました。

ワークショップも楽しい

居心地のよさはどうやって醸し出されるか

―ところで会社と自宅のほかに第三の場(サードプレイス)が必要だといいますが、まさに「こすぎの大学」は居心地の良いサードプレイスだと思います。その居心地の良さはどうやって醸し出されているのでしょうか

岡本:使命感とか気負わずに主催者が楽しんでやっていることと、入りやすく抜けやすい程よい距離感があるということですね。使命感でやっていると、こちらも息苦しくなりますから。

―運営の方々は、みなさんボランティアですか

岡本:毎回、1,000円の会費をいただいていますが、講師の方への謝礼と運営費用に充てています。


僕らは「こすぎの大学」で得たソーシャルキャピタルで、実際の自分の仕事にも還元できます。本業の仕事でプラスアルファのキャピタルを得ています。だから、ボランティアという感覚はありません。今日みたいにインタビューを受けることで、間接的にお仕事をいただいたりできます。基本的に自分たちが楽しみたいからやっていて、誰かのためにやっているわけでもありませんから。

懇親会で大いに盛り上がります(左端が保崎晃一さん)

長続きしている秘訣はなんですか

―ゲストには多士済済な人たちが登壇されますが、人選はどうされているのですか

岡本:主催者の僕らから声をかけたのは初期のころの10人くらいです(現在、登壇者は累計129人)。他は、居酒屋「焼辰」さんで、わいわいがやがやしながら、自然と数珠つなぎの友達の輪のように、登壇者が決まっていきます。全国区的に著名な人というよりは、地域に根差した活動をしている方々ですから、誰もがスーパースターで、誰もが庶民なんだと感じています。また、自薦・他薦いずれもOKです。

―今年で10年目ですが、長続きした秘訣とは

岡本:ひとつは終わりがないなということです。まだまだ自分の知らない方で、登壇してくれる人はたくさんいると思っています。町の環境に恵まれているとも言えますね。もうひとつは、もっといろんな人や町のことを知りたいという想いでしょうか。

だから、やり続けたいという気持ちと、やり続けるときのハードルの低さがいい感じでバランスが取れているのかなと思います。やりたい気持ちに対して、できることが小さかったら、そこで崩壊しちゃうし、willとcan、mustがいいバランスをとっていることが、長続きの秘訣だと思います。

今後の展開は

―昨年、NECを「中退」してフリーランスで働いていらっしゃいますね

岡本:取り組んでいることが4つあります。①マイパーパス(自らの存在意義)を起点にした企業のブランディング、②多世代の交流の場を通じて自分自身がアップデートするための人材育成、③「こすぎの大学」で実践している地域デザイン、④社会参画を含めた環境変化に対応したサステナビリティです。

―今後、どういう展開を考えていますか

岡本:プロセスに関与することができるようになると、すごく寛容になれる気がします。自分が少しでも関与していたら、努力した結果なのだから、たとえ理想の100点でなくても寛容になれる。それが、サステナビリティだと思います。ですから、今、したいことは、みんなが関与・参画できる環境づくりをしていくことです。そういうマインドづくりですね。

「こすぎの大学」ホームページ:https://www.kosuginouniv.com/

この記事のライター

現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。

関連する投稿


川崎市議会議員・高橋みさとさんに訊く「子育て環境」の難問

川崎市議会議員・高橋みさとさんに訊く「子育て環境」の難問

自ら3児の母として、子育てに厳しい日本の現実を肌身で感じ、専業主婦から川崎市の教育委員になって経験を積み、「子育て支援」を掲げて立憲民主党から市議会議員選に打って出た高橋みさとさん。<br> <br> 肩身の狭い思いで子育てをしなければならない社会はおかしいと訴えます。また、学校の放課後、児童が公園などで遊ぶ姿を見守る大人の目が激減していることにも、警鐘を鳴らします。


「哲学カフェ」を広めたきゃさりん横井さんとは

「哲学カフェ」を広めたきゃさりん横井さんとは

中原区できゃさりんこと横井史恵さんと言えば、知る人ぞ知るコミュニティ活動のベテラン。人脈も幅広く、自ら立ち上げた団体も10に及びます。彼女のもとには、コミュニティ運営の相談事が引きも切らず持ち込まれます。その縦横無尽な活動の一端を覗かせてもらいました。


最新の投稿


「交流保育」&「親子でランチ」で中原区の保育園を親子で体験!

「交流保育」&「親子でランチ」で中原区の保育園を親子で体験!

中原区の公立保育園3園(中原保育園・下小田中保育園・中丸子保育園)では、親子で保育園生活を体験できる「交流保育(ランチなし)」や「親子でランチ」が開催されています。この記事では、「交流保育」の内容や参加方法などをご紹介します。


地域との強固なつながりを展開する100年企業「ジェクト㈱」

地域との強固なつながりを展開する100年企業「ジェクト㈱」

もともと宮大工から始まった建築業で、今年創業104年になるジェクト株式会社。地域密着型企業として、「地域に必要とされる企業であり続ける」という理念のもと、常にどうしたらより地域と寄り添えるかを考え、様々なイベントを開催し、学童クラブも運営しているとか。同社経営企画部の米倉万智さんにお話を伺いました。


「定期予防接種」の基本条件と新生児や転入時の手続き

「定期予防接種」の基本条件と新生児や転入時の手続き

川崎市の定期予防接種は無料で受けることができますが、そのためにはいくつかの条件と手続きが必要です。この記事では、予防接種を受けるための基本条件の他、お子さんが生まれた方や転入してきた方向けの条件や手続き方法などをご紹介します。


妊婦健康診査の費用を助成する「補助券」制度とは

妊婦健康診査の費用を助成する「補助券」制度とは

川崎市ではこれから出産を迎えられる妊婦さんに、妊婦健康診査を行っています。この記事では、妊婦健康検査の必要性と診査の費用を助成するための補助券について詳しくご紹介します。


自由に踊れるダンスで違いを楽しむ「ダンサンブル」

自由に踊れるダンスで違いを楽しむ「ダンサンブル」

初心者でも自由に踊ることができるダンスを通じ、自分の身体表現を肯定していくことで、他人の身体表現との違いをも楽しむことができる…そんな互いに肯定しあう場がダンサンブル。だから、レッスン中も笑いが絶えないとか。主宰者の藤平真梨さんにお話を伺いました。