■ママさんたちの多様な困りごとの解決策
―「シェア実家」というのはユニークな発想ですね
須山:コワーキング親子サロン「いいんだよひろば」をやりながら、どういう形だと今の子育ての大変さが軽くなるんだろうと、いろんなママさんにヒアリングをしていました。そうすると置かれている状況によって困っていることと、欲しいものが色々と出てきて、「ご飯を作るのが大変」という方もいれば、「ちょっとひとりの時間が欲しい」とか、それぞれの困りごとがあって多様でした。
そこで、何をつくったら解決できるんだろうと考えたときに、実家だなと思ったんです。すぐ近くに実家があれば、疲れたときに予約がなくても、ふらっと行って子供を見てもらえて、自分は休むことができます。実際、川崎市では転入者の方が多くて、実家が近くにない方が大勢います。それならば、実家自体を作ってしまえば、いっぱいある困りごとが解決できるなというのが、「シェア実家」の由来です。
―潜在的な需要はかなりあると思いますが、手応えはいかがですか
須山:一時預かりを常設で始めてみて、いろんな用事で利用される方が多いですね。ちょっと預けるところが本当にないんだなということを感じました。
たとえば、お子さんが二人いて、上の子を歯医者に連れていきたいけれど、下の子が歯医者さんで騒ぎ出すと困るから、その時間だけここに預けていくとか、ちょっと買い物に出かけるので預けたいとか、本当に様々な理由でちょっとここに預けて用事を済ませるといった方が多いです。
「こういった施設があるといいですね、助かる!」といった声が多いので、立ち上げてよかったなと思います。
「ちょっと預けたい」のニーズに応える
■子どもを預ける罪悪感を払しょくする「ひろば+預かり」
―ワンオペで育てていることが、産後うつとか虐待の原因のひとつになっているそうですね
須山:実家が近くにないということは、必然的にワンオペで育てることになります。子どもはかわいいはずなのに、一人で世話をしていると、わからないことが多くて辛くなってしまうのはごく自然なことです。誰かに相談したくても、友達で子どもを産んでいる人が少なかったり、産んでいてもたびたび相談できるような仲でもなかったりします。
私もママ友ができたのは、上の子が保育園に上がって、3歳ぐらいになって、ようやく保育園の同級生のお母さんと仲良くなりました。それまでは保育園への送り迎えだけで、子育ての相談をする相手が本当にいなかったです。
―クラウドファンディングも成功を収めましたが、どう使っていますか
須山:多くの方が一時預かりの「利用券」を事前に購入されています。また、「恩送りチケット」と言って、ママたちに使ってくださいという一時預かりの利用券のギフトチケットを、やはり多くのスポンサーが購入してくださったので、その枠を使って利用されている方が多いですね。
あとは、従来、民家だったので、施設として設備を整えるために避難誘導灯をつけたり、あるいは棚などの備品を購入させていただいたりしました。
―子どもを預けるのに伴う罪悪感を「ひろば+預かり」で垣根を低くしているそうですね
須山:自分の子どもなんだから、自分で面倒を見るのが当たり前といった感覚がどこかにあって、別に仕事しているわけでもないのに、おカネをかけて預けることに後ろめたさを感じることがあります。一方、「いいんだよひろば」は、子どものためにもいいことをしているし、自分も一緒だし、日中、親子で遊びに来る場所なので、とくに罪悪感もありません。
その「いいんだよひろば」で一時預かりもやっているよということがわかり、だったら、私も預けてみようかなと思えたり、一時預かりもあるから使ってねと言われたら、利用してみようかなと思ってもらったり、「いいんだよひろば」がきっかけで、預けることのハードルが下がればいいなと思っています。
「いいんだよひろば」と併設していることで心の垣根を低くする
■事前見学・登録なしで当日での対応も可能
―一般的に一時預かりは手続きなどが煩雑なのでしょうか
須山:相当、利用しづらいです。電話で問い合わせをすると、一度、見学に来てくださいと言われて見学に行くと、そこで、事前の手続きをするのでもう一度来てくださいと言われ、子どもを預ける当日もいろんな書類をもって行かなければいけないとか、予約を取るのも、電話が殺到してすぐにいっぱいになってしまい、その後も全然、予約が取れないといったことが起きています。
―どんな理由でも利用可能とされていますが、利用理由を訊かれるものでしょうか
須山:たいていは訊かれますね。仕事であれば堂々と書けますが、買い物などだと書きにくいですね。また、「いいんだよHOME」では、事前見学・事前登録はありませんし、当日での対応も可能です(アレルギーなど必要な情報はきちんと確認しています)。まず、当日対応可能な施設はとても少ないです。
この間も大雨が降った日に夕方、上の子の幼稚園のお迎えに行くのに、この雨の中、下の子を家に置いていくわけにもいかないとか、自分が急に熱が出てしまったとか、だいたい預けたいときというのは急なので、ほとんど今のところ、直前予約ですね。
また、ネット予約ができるのですが、これも一時預かり所ではあまり普及していません。また、1時間から預かりますというのも、珍しいと思います。
■世代を超えた多世代スペースで癒しの場をつくる
―多世代スペースを今後つくる予定だとか。なぜですか
須山:私は上の子が生まれたのが、2011年2月で、その直後に東日本大震災が起きました。父の実家が鹿児島なのですが、その実家に赤ちゃんを連れて3か月避難していました。その時に父の兄の家に居候させてもらっていたのですが、そこは色々な親戚が出入りしていたり、お祖母ちゃんがいたりして、とても心が癒されました。
また、今はお休み中ですが、以前は、この場所にご年配の方が健康マージャンをしにやってきて、帰るときには子どもたちをのぞきに来て、「今日も元気ね」と声をかけてくださいました。それが、とてもいいなと思っていて、多世代スペースをつくろうと考えています。
年配の方が健康マージャンをする場にも
―今後の抱負はありますか
須山:ママさんたちの話を聞いていると、色々と次に必要なことが見えてきます。たとえば、3人お子さんがいるママが来ていて、2歳から小学2年生までのお子さんがいるので、小学生も預かってほしいといったご希望を言われました。ですから、夏休みの間だけでも、隣の部屋で小学生向けの寺子屋をやろうかなとも考えています。
―読者へのメッセージをお願いします
須山:クラウドファンディングで用意した恩送りのギフト・チケットがすぐになくなってしまいました。3時間無料券を困っているお母さんに使ってねというものでしたが、やはり利用したい人はいっぱいいるけれど、おカネがかかってしまうので、気楽には使えないんだなというのをすごく感じました。
クラウドファンディングは期間限定ですから、継続寄付のような形で、本当に困っている方が使えるようなシステムを考えるので、また、ご寄付のご協力をお願いしたいなと思っています。
また、もともと「いいんだよひろば」に来てくれていたパパ・ママ以外で「いいんだよHOME」を利用される方って、たまたま前を通りかかって見つけましたとか、グーグルマップで検索して見つけましたといった方が多くて、「見つけてラッキーでした!」というおっしゃる方がいます。
ですから、もし近くで、小さいお子さんがいるパパ・ママがいたら、「こういうところがあるよ」と、ぜひ、教えてあげてほしいと思います!
現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。