「俳句フォト」で俳句の世界に新境地を拓く小山正見さん

「俳句フォト」で俳句の世界に新境地を拓く小山正見さん

俳句フォトの火付け役・小山正見さんが俳句を始めたのは、校長時代に小学生に俳句を作らせることからだったといいます。句集『大花野』では、認知症を患う妻との暮らしを綴り、静かな感動を呼び起こします。また、元住吉にある自宅のフリースペース「感泣亭」では、様々な会が開かれています。そんな幅広い活動についてお話を伺いました。


俳句作りは小学生の学習材として非常に適切で使い勝手がいい

―なにがきっかけで俳句を始められましたか

小山:僕は教員をやっていました。葛飾区のこすげ小学校で校長を務めましたが、足立区の炎天寺で俳人の小林一茶ゆかりの「一茶まつり」という俳句大会が開催されていて、その当時、こすげ小学校の生徒がその大会で入賞したのです。僕もちょっと俳句に興味があったので、「せっかくなら、子どもたちに俳句を作らせたら」と言って、子どもたちに俳句を作らせて句集を作りました。

 

その後、江東区の八名川小学校に転勤したのですが、学区域に松尾芭蕉記念館があるにもかかわらず、八名川小学校ではまったく俳句作りをしていなかったのです。そこで、八名川小学校でも子どもたちに俳句作りをさせたいと思ったのです。

 

それがきっかけで、子どもに俳句作りをさせるためには、自分もちょっとくらいは俳句をかじっておかなければまずいなと思って、芭蕉記念館に行って、ある俳句の結社を紹介してもらい、句会に参加したりしました。

 

そこで、どうやって子どもたちに俳句を作らせたらいいかということを少しずつ勉強していき、「10分間俳句」というのを考案しました。5分間で俳句の種を見つけて、5分間で俳句を作るというもので、たとえば、今日の朝食は何を食べたかとか、こんな素敵なことがあったとかを書き出してもらい、それを基にして、五七五の俳句を作ってもらいました。

 

当初、僕が俳句を始めたのは、教育的に意味があることだったからです。当時、新しい指導要領が、日本の伝統言語文化をとりあげようというふうに変わったのです。俳句は短いので、誰でも簡単に作ることができます。時間がかからないし、評価がやさしい。だから、学習材として非常に適切で使い勝手がいい。

 

しかも、ひと言で本質を言い当てることができたりします。ものを見る目を育てます。どの教科でも観察眼を鍛えることは、学習の起点になります。ですから、学習にも役立つ。また、表現力を培うこともできます。日本語の持つ繊細さに気がつくチャンスになります。

小学校での俳句授業は大好評

認知症を患う妻との暮らしを綴ることで人生観が変わった

―ところで句集『大花野』を綴る過程で人生観が変わったそうですが

小山:僕が教員を辞めてからの10年間と妻の認知症の進行は重なるんです。それまでは、男として生きていると、何事かをやり遂げたい、生きた証を残したいという想いがあったりしました。ところが妻が病気になって思ったのは、一緒にいるだけでいいんだということです。何かをやり遂げるよりも、静かに一緒にいるだけでいいじゃないか、その方が意味があるというふうに変わりました。

 

もうひとつは、30代の頃、とても荒れていたんです。仕事がうまくゆかず、月曜日に学校に行くのがしんどくて、うじうじ悩んだり迷ったりしていました。その時、妻に「私は自分で決めたことには後悔しないの」と言われて、後ろを振り向くなということに思いが至ったのです。

 

うまくいかなかったときに、前向きな人は「この問題をどう解決すればいいのか」ということを考えますが、後ろ向きな人は、「なんで自分はこんなことができないんだろう」と自責の念に駆られます。問題に向かうのではなくて、自分の内面に向かってしまうわけです。それは、結局、甘えているということなんだなということに気がついたのです。つまり、問題から逃げているんです。

 

妻の病気に関しても、「なんで妻はこんな病気になってしまったんだろう」ということは考えず、「どうしたらこの問題を解決できるだろうか」と考えるようになりました。だから、妻の病気で嘆き悲しんだりはしませんでした。そういう意味では、精神的に自分がすごく苦しかったとは考えていません。それも妻のおかげだと思っています。

 

句集『大花野』について言うと、認知症を患う妻との日々を公表したということに意味があったと思っています。しかし、家族の秘密、負のプライベートなことを世間にさらすことがどういう影響や結果になるのかが、すごく心配でした。ただ、娘はすでに結婚していたので少し安心でした。もし、未婚だったらやはり躊躇していたかもしれません。

静かな感動を呼び起こす句集『大花野』

俳句フォトがこれからの俳句の主流になる可能性も

―俳句フォトの活動もされていますね

小山:俳句フォトを始めたのは、学校を退職する10日前ごろでした。一番印象に残っているのは、「仕事終へ春満月に迎へらる」という句で、それが俳句フォトの最初の作品です。ただ、俳句仲間には「俳句フォトは俳句じゃない」とも言われました。つまり、俳句としては弱いというのです。

 

なぜかというと、絵があって俳句がわかる…要するに写真というつっかえ棒があるから俳句がわかるというのは、俳句としては弱いということです。だからずっと趣味でやっていました。でも、昨年、「これ、面白いですね!」と、周りの人が俳句フォトを発見してくれたんです。

 

俳句フォトは「写生」です。当然ですが、写真には必ずモノが写っています。例えば、石が三つ写っていれば、「秋の風道路の脇に石三つ」といった具合です。そうすると俳句をやったことがない人でも写真というとっかかりができて作りやすい。

 

また、写真を撮るというのは、なにか引っかかりがあるから撮るわけです。だから必ず心の動きがある。すると、写真を見てその意識を思い出せば、俳句になりやすい。しかも、新しい発見ができる。たとえば、町おこしとして、自分たちの町を見直そうということにもつながります。

 

もしかしたら、これから俳句フォトは、俳句の主流になっていくかもしれません。写真と俳句の組み合わせという新しい文化が根づくかも。しかもこれは、日本だけではなく、海外でも「短詩」としてどの国でもできます。そうすると世界に広がる可能性を持っています。

「俳句フォト」は世界に広がる可能性も

自宅のフリースペース「感泣亭」では様々な会が開かれる

―ご自宅のフリースペース「感泣亭」の活動は、俳句フォトを始める前からですか

小山:もともと、元住吉にある自宅のスペースを活用したかったのは妻なんです。妻はパルシステム(生協)に勤めていたのですが、その勤めを辞めたら、「まちの台所」をやりたいと言っていたんです。そのために、このスペースをつくりました。

 

最初は妻のお食事会だったので、俳句フォトよりずっと以前ですね。コロナ禍で活動がお休みになったのですが、知人が感泣亭で再びいろんなことをしたいということになって、およそ2年前から、活動を再開しました。

 

―感泣亭での具体的な活動を教えてください

小山:感泣亭のすべての活動の起点は、「サロン de 感泣亭」です。これは毎月第4火曜日にやっています。毎月集まるとアイデアがたくさん出てきて、その思いつきを基に色々な会を開催しています

 

たとえば、「樹々の詩」という会は、不登校の子どもやその親たちが集まる会です。「言葉の部屋」という会は服部剛さんという詩人による詩の教室です。「読書会」も開催していて、自分が紹介したい本を持ち寄って、その本のことを語る会です。「あなたを語る会」というのもあって、地域の方々が集まって、ご自分のことを話していただきます。もちろん「俳句初心者セミナー」もやっています。

独特のコミュニティを形成している「感泣亭」

―今後の抱負を教えていただけますか

小山:感泣亭について言うと、せっかくこのようなスペースがあるので、もっと色々な形で様々な人たちに利用してもらいたいと思っています。それは妻の想いでもあるでしょう。俳句フォトについて言うと、スポンサーがついてくれるなど収入源ができると、ホームページ作成でサポートしてもらっている技術者の方も持続可能になり、私の後に続く代替わりもできると思っています。

―読者へのメッセージをお願いします

小山:「楽しく暮らそうよ」ということですね。やりたいことをやって、生きているうちはできるだけ楽しく過ごすこと以上のものはないと思います!

俳句フォト公式ホームページ:https://www.haikuphoto.jp/

小山正見さんとの出会いの場:中原区100人カイギ

この記事のライター

現代社会は、地縁、血縁、社縁(職場の縁)が希薄になり、個々人がバラバラに分断され、多くの人が孤立するようになりました。そんな社会を修復するにはどうすればいいか。その一つの解が、新たなコミュニティを創造することだと思っています。

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